社会

自転車は車両、ルール順守で安全に 新たな産業に成長も、丸の内でシンポ

(左から)JCL顧問で元警視総監の樋口建史氏、コーディネーターをつとめた白戸太朗氏、橋本聖子参院議員、JCLの片山右京チェアマン、国土交通省自転車活用推進本部事務局の金籠史彦次長、NPO法人自転車活用推進研究会の小林正基理事長、日本人で初めてツール・ド・フランスに出場した今中大介氏。
(左から)JCL顧問で元警視総監の樋口建史氏、コーディネーターをつとめた白戸太朗氏、橋本聖子参院議員、JCLの片山右京チェアマン、国土交通省自転車活用推進本部事務局の金籠史彦次長、NPO法人自転車活用推進研究会の小林正基理事長、日本人で初めてツール・ド・フランスに出場した今中大介氏。

 エコな乗り物として再認識されている自転車。社会の中でどう活かすかを探るシンポジウムが、2月18日に開かれた。ジャパンサイクルリーグ(JCL)が東京丸の内地区を会場に開催した「GRAND CYCLE TOKYO丸の内クリテリウム presented by フィナンシェ」の中のイベントの一環。司法、行政、普及、競技とさまざまな面から意見が出され、自転車に対する社会の認識をどう変えていくか、世界を目指す競技力向上のためには何が必要か、貴重な提言が相次いだ。

 障害なければバスと同じ速度

 参加者は、JCLの片山右京チェアマン、JCL顧問で元警視総監の樋口建史氏、国土交通省自転車活用推進本部事務局の金籠史彦次長、NPO法人自転車活用推進研究会の小林正基理事長、日本人で初めてツール・ド・フランスに出場した今中大介氏。後半の競技力向上の討論には、東京2020五輪パラリンピック組織委員会の会長だった橋本聖子参院議員も加わった。

 討論で最も重点が置かれたのは、自転車は「歩行者なのか車なのか」を一般市民にどう認識させるかだ。現在の道路交通法では、自転車は軽車両と位置付けられ、車線の左側を走ることが義務付けられている。しかし、現実には多くの人が「自転車通行は歩道」と思い込んでいる。歩行者感覚なので信号無視や交通ルールを守らないケースも目立つ。小林理事長は「自転車は歩道通行という認識があるのは、先進国では日本だけ。(左車線に駐車などの)障害がなければ、バスと自転車は同じ速度だ。長いこと車両だと訴えてきたが、この考え方が変わるには今後、5年、10年とかかるだろう」と指摘。樋口氏は「車両という考えを徹底するには(自転車で)違反した場合の罰則を厳しく適用することも必要ではないか」と言う。

シンポジウム会場の様子
シンポジウム会場の様子
 道路使用の再配分で共在

 道路を建設、管理する立場の金籠次長は「自転車を活用するのは国策(2017年に自転車活用推進法施行)なので、健康面や環境面を考慮して自転車を社会的な課題を解決する手段として活用したい。日本の道路は総じて狭いので、限られた車線をどう配分して人、車、自転車との共在を図るか、スマートな道路使用を広めていくことが大事」と提言。同時に、ある場所は自転車に乗り、ある区間は電車やバスなどの公共交通機関を利用して移動する、欧州では普通の、こうした選択肢も必要という。

 東京五輪の自転車ロードレースのコースだった山梨県に住む今中氏は「五輪の後、山梨県では車は自転車に、自転車は車に配慮する雰囲気が高まったように感じる」と、五輪効果で意識が変化し始めていると話した。

 社会規範の象徴に

 参加者に共通していたのは「自転車は車両」の認識を、一般市民のレベルでどこまで浸透できるかが、新たな自転車文化の創造の鍵になるということだった。

 そこで、片山チェアマンは、以前、駅前の放置自転車が問題になったが、最近はかなり解消されてきた例が参考になると切り出した。駐輪場が整備されたり、駅前から駐輪スペースが移されたりと、最近は乱雑に乗り捨てられた光景を見かけなくなった。これなど、行政、警察、利用者が一体となって対応してきた成果だ。

 樋口氏は、自身が取り組んでいる万引対策を例に引き「小さな違反を見逃さない。そういう社会規範が、広く保持されると社会はよくなる。官民が手を携えて行動し、自転車もルールを守り正しい通行をすると意識が改革されれば、自転車のイメージも変わる」とまとめた。

 応援の文化は未成熟

 後半は、「JCL TEAM UKYO」の総監督も務める橋本議員を加え、自転車の競技力向上について話し合った。片山チェアマンは、東京五輪で自転車の競技責任者を務めた経験から「東京五輪のレガシー(遺産)は確実に残っているが、まだ応援する文化は成熟していない」と切り出した。競技を発展させる活動資金を確保するため「JCLはスポーツの産業化(プロ化)を進めていく」と方向性を示し、国内ツアーで鍛えられて強くなった選手を、世界に送り出していく仕組みを作るという。

 ツール・ド・フランスに出場経験がある今中氏は、欧州に活動の舞台を移した1990年代、日本選手は全く相手にされなかったと振り返った。「ただ、日本人マラソンランナーが優秀なように、適性次第で日本人でも世界的なロードレーサーが誕生する可能性はある」と言う。

 海外派遣と医科学の支援

 橋本議員は現役時代、スピードスケートと自転車(トラック種目)の2競技に挑戦し、ともに五輪出場を果たした。「当初、両立は無理と言われたが、スケートの練習に普段から自転車を採り入れていたし、両方で五輪のメダルを取ったローテンブルガー(東ドイツ=当時)のような選手もいた」と指摘。そして、自身の体験を踏まえ「世界に通じる選手を育てるには、海外でプレーする機会を多く与える。医学と科学の両面でサポートする。この2点が不可欠」と力説した。

「JCL TEAM UKYO」の総監督も務める橋本聖子参院議員
「JCL TEAM UKYO」の総監督も務める橋本聖子参院議員

 2021年の東京五輪に向けては各競技に多額の強化資金が投じられ、いずれも史上最多となる金27個を含む58個のメダルを獲得した。しかし、五輪後に資金援助が減るとレベルを維持するのは並大抵ではない。そこでJCLは「代表を逃しても抜群の体力と能力を持つ次点のアスリートがほかの競技にはたくさんいる。そういう選手に自転車に挑戦してもらうアカデミーの創設」(片山チェアマン)を検討している。今中氏も人材発掘の面に触れ「地方ではロードレーサーで通学している中高生の運動部員が大勢いる」と未来の可能性に同意する。

 バイトしながら世界は無理

 もう一つが選手のプロ化だ。片山チェアマンは「アルバイトしながらでは世界で勝てない」と、JCLツアーへの資金援助を求める。ロードレースが地域活性化につながるとの期待も込め、三菱地所など多くのサポートを得ているが、まだ十分ではない。ロードレースへの理解を深めるという意味では、国が進める「ナショナルサイクルロード構想(現在6ルート設置)の広がりも有効になる」と金籠次長は話す。

 こうした、官民での取り組みがいずれは裾野を広げていくだろう。橋本議員は「医療、福祉、観光、地場産業など、多くの産業を結びつけるのがスポーツ。自転車は大きな可能性を秘めている」と期待した。この発言に片山チェアマンは「みなさんの意見に勇気をもらえた。今までやってきたことを信じて続けていきたい」と誓った。

 トークン発行でファン参加

 最後に、今回のイベントを協賛した株式会社フィナンシェの田中隆一取締役COOがあいさつ。同社はブロックチェーンを活用したトークン発行型クラウドファンディングで、国内の多くのサッカークラブやスポーツチームを支えている。田中COOは、「トークンを発行してファンの声を反映させ、多くのチームのファンコミュニティーをつくっている。日本ではその分野が遅れているが、成功例を増やしていきたい。ファンが参加することを、われわれの技術で実現していく。JCLの可能性は大きく、われわれも一緒に成長していきたい」と、今後の支援を約束した。

片山右京氏(左)と株式会社フィナンシェ田中隆一取締役COO(JCL提供)
片山右京氏(左)と株式会社フィナンシェ田中隆一取締役COO(JCL提供)