ユダヤ人を迫害したナチスの下で、ドイツ国内に潜伏したまま生き延びたユダヤ人たちがいた。彼らの命を辛くも支えた農場主や娼婦など、名もなき人びとによる救援活動を掘り起こしたノンフィクション、『沈黙の勇者たち ユダヤ人を救ったドイツ市民の戦い』(岡典子著、新潮選書)が刊行された。
ナチスがユダヤ人迫害政策を始めてから10年が経過した1943年6月、宣伝相ゲッベルスは「ベルリン(=ドイツ国内)からユダヤ人が一掃された」と宣言したが、実際には収容所への移送を逃れるために潜伏生活に入ったユダヤ人たちが国内にたくさん残っていたという。ドイツ全土で1万人から1万2000人。うち約5000人が生きて終戦を迎えた。
ゲシュタポ(秘密国家警察)が監視の目を光らせるドイツで、ユダヤ人のために隠れ場所を提供し、食べ物や衣服を与え、身分証明書を偽造し、あらゆる非合法手段を講じてかくまった救援者たち。「沈黙の勇者」と呼ばれるこのごく普通のドイツ市民たちについて知ることができる。
ロシアのウクライナ侵攻で、「戦争」報道が身近になってしまった現代、ドイツで教えられる「市民的勇気」、「見て見ぬふりをしない勇気」を既に持っていた当時の人々から学べることは多いはずだ。税込み1925円。