カルチャー

クールジャパンの担い手を育成 若手クリエイターに助成、上月財団

認定書を授与する東尾公彦コナミグループ社長(右)

 漫画やアニメ、イラストのクリエイターを育成するために助成を行っている上月財団(上月景正理事長)は、第20回「クリエイター育成事業」の二次選考会を7月26日、東京都中央区のコナミリバーサイドで開き、助成対象30人を決定、認定書授与式を行った。30人には今年8月から毎月5万円、年間60万円の助成を行い、創作活動に役立ててもらう。

 ▽全国から158人が応募

 同事業では今年2月27日から5月8日まで、全国から15歳~25歳くらいまでの助成希望者を募集した。5枚程度の作品を添えて応募してきた158人を対象に一次選考を行い、41人に絞った。東京での二次選考では、6個のテーマから一つを選び作品を制作する実技と選考委員の面接を受けた。選考委員は株式会社手塚プロダクションの松谷孝征社長、漫画家のくらもちふさこさん、東京藝大大学院映像研究科の伊藤有壱教授、コナミグループ株式会社の東尾公彦社長、コナミデジタルエンタテインメントの車田貴之プロモーション企画本部長の5氏が務めた。

実技の審査風景

 ▽夢を語り続けることが大切

 実技と面接の後には、2016年から3年間、この事業で助成を受けたアニメーション作家の門脇康平監督(27歳)が特別対談に臨んだ。門脇監督は、YOASOBIの「優しい彗星」や、ケツメイシの「夜空を翔ける」のミュージックビデオ(MV)の制作で知られ、現在は長編アニメ映画の制作に取り組んでいる。対談では「感じたことをたくさんメモにして、アイデアの引き出しを多くする努力が大事」と伝えた。さらに質疑応答の中で「資料を集めるために2週間に1度は知らない土地に出かけたり、ネットの画像を使わず実際に自分の足でその風景の中に立って周囲との距離を感じ取ったり、どんな人がいるのかを見たり、そういう作業を怠らないようにしている」と話した。

門脇康平監督(右)とコナミデジタルエンタテインメント車田貴之プロモーション企画本部長による特別対談

 そして「学生(東京藝大)のころから将来はアニメの監督になると周囲に言い続けてきたことで、友人がプロデューサーを紹介してくれるなど、今になって生きてきている」と話し、夢を語り続けることが大切と強調した。助成金はパソコンやソフトの購入、短編作品の制作費などに充てた。本来ならそれらの費用はアルバイトで稼ぐつもりだっただけに、助成金で目標達成への時間を短くすることができたと、育成事業に感謝した。

「夢を語り続けることが大切」と語る門脇康平監督

 ▽就職かプロかの悩みも

 今回、認定された30人のうちの一人、化生真依さんは大阪大学工学部の大学院で建築を学んでいる。プレゼン用に絵を描くことも多く、イラストで応募した。「周りは美大や専門学校の人が多く不安だったが、選ばれてほっとしている。助成金でアルバイトを減らせるため、イラストを描く時間が増えるのがうれしい」と喜びを話した。同時に、建築家として生きるのか、プロのイラストレーターを目指すのか、選択が迫っていると新たな悩みも生まれた。ただ、審査委員の松谷社長は講評の中で「大阪大学医学部卒の手塚治虫は、後輩たちにいい小説を読め、いい絵画を鑑賞しろ、いい映画を見ろ、ほかの分野の勉強をしろといつも話していた」と、在りし日の巨匠の姿を紹介していた。

 この事業には、上月理事長が会長を務めるコナミグループの株式配当が資金に充てられ、今までに約670人が助成を受けてきた。漫画では『神さまの言うとおり』の藤村緋二、『死役所』のあずみきし、『白山と三田さん』のくさかべゆうへいらが助成を受け、その後、人気漫画家に成長した。今や世界を席巻するクールジャパンの中核を成すのが漫画やアニメ、ゲームなど。「クリエイター育成事業」は、そんな文化発信の次代の担い手たちを支えている。