カルチャー

【はばたけラボ 先輩に聞く】 はばたくために必要なのは「信念」を貫くこと 輪島塗の今瀬風韻さん

今瀬風韻さん

 

 未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」。食べること、くらすこと、周りと関わること、ワクワクすること・・・。今のくらしや感覚・感性を見直していく連載シリーズ。

 今回ご登場いただくのは、輪島塗の塗師として生きる今瀬風韻(いませ・かざね)さん。石川県能登半島にある全国一の木製漆器産地に飛び込んだ理由ややりがい、描く未来を聞きました。

 Q.1 輪島塗と出会ったきっかけは。

 中学生時代から美術の仕事に興味があり、絵を描くより手を動かし立体をつくる工芸に関心がありました。母が和食店を営む料理人で、昔から家には器がたくさん。その影響でもともと「器」に興味がありましたが、なかでも漆器は表面の艶や質感が格好いいと感じていました。石川県立輪島漆芸技術研修所を進学先候補の一つとして訪ねた際に産地の質の高さを知り、漆を志すならやはり全国一の輪島に行きたいと思いました。故郷の愛知を離れることに迷いはありませんでした。

Q.2 今の仕事の内容を教えてください。

 研修所を経て、江戸時代後期から漆器業や木地業を営む「輪島キリモト」に入社し、塗師として働いています。赤と黒で、沈金や蒔絵(まきえ)の絵柄があるのが輪島塗の一般的な印象だと思いますが、輪島キリモトの器は無地が多くモダン。現代の食卓に合うデザインを意識していて、自分がやりたいことに合っている。採用されなかったら、輪島を出ようと思っていました。今は、塗師歴35年の大先輩・小路貴穂さんを師匠に、椀や盃、盆などをつくっています。

今瀬さんが手掛けた、白漆に菊を描いた盃(手前左)や片口などの漆器

Q.3 2024年元旦に輪島を大地震が襲いました。

 震災発生時は、愛知県の実家に帰省中でした。輪島に連絡がつながらない時間があって不安でしたが、皆の無事が分かり本当に安心しました。5月ごろまで実家と輪島と愛知を行き来しながら仕事を続けました。輪島ではたくさんの被害が出て、漆器の仕事を離れる人も多く出ましたが、輪島キリモトは営業を続け、私の住む場所もある。輪島に再び戻って塗師をやると決心しました。

Q.4 震災前と今、考え方に変化はありますか。

 漆をずっと続けていくという気持ちは変わらないですが、どこでどう続けるか、自分に足りないものは何か、本当にやりたいことは何か――。さまざまなことを考えるきっかけになりました。まだ身につけていない技術を補完しようと、今は仕事以外に、技術伝承者を育成する輪島塗技術保存会に所属し、先生についてさらに高度な技術を学んでいます。輪島に来て10年たち、職人として進むか、作家になるか、時間をかけて考えたいですが、両立できるのが一番いいかなと思っています。

Q.5 どんな漆器をつくりたいですか。

 漆の塗りが引き立つ美しい形を追求したい。特にこだわりたいのは、お椀づくりです。器をしっかり手に持ち汁を飲むという食文化がある日本において、漆器のお椀はとても理にかなったもの。自分ならではの現代的な未来を見た表現を大事に、カジュアルになりすぎず、機能と見た目の美しさを兼ね備えたものを作っていきたいです。それから、母に自分のつくった器で料理を出してもらうのも目標の一つです。

Q.6 輪島の好きなところは。

 20歳で輪島に来てから、周囲からは娘や孫のような存在として、本当によくしてもらっています。「これ食べろや!」と、食べ物を分けてもらうことも。都会では人の冷たさを感じることもありますが、輪島は本当に温かい。何もなくて、何もできなくても、誰かが助けてくれる。温かい人がいる、それが一番の魅力だと思います。

番外Q 「はばたけラボ」が問い掛けるテーマ、〝ヒトは「 」で人になる〞。あなたの考える「  」に入る言葉を教えてください。

 信念を貫くこと。確かな芯、心にぶれない軸を持って、誇りを持って進んでいきたいと思います。

今瀬風韻(いませ・かざね)/1995年生まれ。愛知県出身。地元の高校卒業後、塗師の道を志し、石川県立輪島漆芸技術研修所に入学。卒業後、輪島キリモトに入り、同社初の女性職人に。趣味は、パン屋・ギャラリー・雑貨屋巡り。

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#はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパン、ミキハウスとともにさまざまな活動を行っています。