日本映画黄金時代の松竹、日活、東宝、大映を渡り歩き、51作品を残して早逝した映画監督の川島雄三。その作品世界の面白さは、ダンディーで、シャイで、ニヒリズムあふれる監督自身の生きざまとともに語り継がれている。
今もなお多くのファンを魅了する川島作品を、映画館で鑑賞するチャンスだ。戦時下でのデビュー作『還って来た男』から、代表作『洲崎パラダイス 赤信号』、『幕末太陽傳』、『貸間あり』、『青べか物語』、遺作『イチかバチか』まで、合計37作品がラピュタ阿佐ヶ谷(東京都杉並区阿佐ヶ谷北2-12-21:03-3336-5440)で2月26日(日)~4月22日(土)に一挙上映される。
主な上映作品は次の通り。
◆『幕末太陽傳』1957(昭和32)年/日活/白黒/110分——「居残り佐平次」などの古典落語に材をとり、幕末の騒乱のなかを軽快に泳ぐ自由人・佐平次と、彼に関わる人々を描いた傑作コメディー。廓(くるわ)で繰り広げられるドタバタに、ふと見え隠れするニヒリズム。フランキー堺が渾身(こんしん)の名演技をみせる。
◆『飢える魂』1956(昭和31)年/日活/白黒/79分——若き人妻・南田洋子と彼女を慕うプレイボーイの青年実業家・三橋達也、二人の子どもを抱えて生きる未亡人・轟夕起子と病の妻を持つ出版社部長・大坂志郎。二組の不倫話が同時進行する。小林旭のデビュー作としても知られる文芸メロドラマ。
◆『青べか物語』1962(昭和37)年/東京映画/カラー/101分——都会生活に疲れ、江戸川下流の漁師町「浦粕」へとやってきた作家先生・森繁久彌と、人間味あふれる住人たちとの一風変わった交流を描いたもの。原作は山本周五郎の自伝的小説。「印象派」を狙ったという岡崎宏三の撮影も素晴らしい。
◆『還って来た男』1944(昭和19)年/松竹下加茂/白黒/67分——戦地から帰還し、見合いを控えた軍医・佐野周二が、さまざまな女性とぎこちなく交流する。川島雄三の記念すべき監督デビュー作。織田作之助が自作『清楚』、『木の都』を脚色している。
◆『明日は月給日』1952(昭和27)年/松竹大船/白黒/90分——8人の子どもを抱える真面目一本やりの経理課長が、給料の遅配に立ち向かうサラリーマン喜劇。月給日を巡る騒動に、大家族それぞれのエピソードが絡んで、やがてハッピーエンドにいたる。主人公の家長には日守新一、いい味。
◆『貸間あり』1959(昭和34)年/宝塚映画/白黒/112分——大阪通天閣付近のアパート屋敷を舞台に、一癖も二癖もある住人たちの奔放な行状がつづられる。当時駆け出しのシナリオライターだった藤本義一とともに井伏鱒二の原作を大胆にアレンジ。川島雄三の墓碑銘「サヨナラだけが人生だ」が台詞にも。
◆『洲崎パラダイス 赤信号』1956(昭和31)年/日活/白黒/81分——ワケありの男女がバスに揺られてやってきたのは「洲崎パラダイス」・・・。橋のたもとにある一杯飲み屋を中心に、歓楽街に出入りする人々を描いた川島雄三の代表作の一つ。腐れ縁のカップルに三橋達也と新珠三千代。
その他の上映作品は——『とんかつ大将』、『東京マダムと大阪夫人』、『赤坂の姉妹より 夜の肌』、『特急にっぽん』、『適齢三人娘』、『女であること』、『続・飢える魂』、『暖簾』、『あした来る人』、『夜の流れ』、『眞實一路』、『笑ふ宝船』、『追ひつ追はれつ』、『女優と名探偵』、『グラマ島の誘惑』、『愛のお荷物』、『追跡者』、『昨日と明日の間』、『花影』、『花吹く風』、『接吻泥棒』、『風船』、『こんな私じゃなかったに』、『人も歩けば』、『わが町』、『箱根山』、『新東京行進曲』、『縞の背広の親分衆』、『イチかバチか』、『喜劇 とんかつ一代』。
観覧料(当日)は一般1300円、シニア・学生1100円。各回定員入れ替え制。午前10時から当日の全回分の整理番号付き入場券を発売する。定員48人になり次第、締め切る。上映スケジュールなどはウェブサイトで 。
川島雄三は1918年、青森県の現在のむつ市に生まれた。1938年、明治大学専門部文芸科を卒業し、松竹大船撮影所に入社。1944年、織田作之助に直接シナリオを依頼した『還って来た男』で監督デビュー。1954年、制作を再開した日活に電撃移籍。男女の腐れ縁を描いた『洲崎パラダイス 赤信号』、古典落語に材をとった喜劇『幕末太陽傳』で名声を博す。
この作品を最後に新たな環境を求めて東宝系の東京映画へ。難病を抱えながらも、時にコミカルに、時にシニカルに…人間味あふれる数々の傑作・快作・怪作を世に送り出した。1963年6月11日急死。45歳の生涯だった。