SDGs

トンボから水や食の安全を学ぶ 日本一の保護区「トンボ王国」の教育体験プログラム

トンボ王国には81種のトンボが確認されている
トンボ王国には81種のトンボが確認されている

 秋になると街中でもよく見かけるトンボ。秋のイメージが強いトンボだが、実は春から秋にかけて見られる生き物だ。トンボは世界中に約6400種が生息するといわれ、国内では現在までに200を超える種類が確認されている。

■国内に生息するトンボの4分の1は絶滅のおそれ

 トンボの幼虫ヤゴは水中に生息する水生昆虫。ヤゴは、その種類によって生息できる水質が異なる。人間が飲用可能なほどきれいな水に住むムカシトンボのヤゴや、農業用水として使用できる水で生きるもの、少し汚れた水でも暮らせるヤゴもいる。幼虫の期間は数週間から数年におよぶものまでさまざまで、川や池の汚濁物質になる可能性が高い水中の小動物(有機物)を食べてくれる。羽化するトンボが多いほど水辺の環境は整い、トンボは、蚊やハエ、イネの害虫となるウンカを食べる益虫ともされてきた。

ムカシトンボのヤゴ(提供:トンボと自然を考える会)
ムカシトンボのヤゴ(提供:トンボと自然を考える会)

 トンボは、水質をはじめとする自然環境の変化に影響を受けやすい。環境省が2020年3月に発表した「絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト(レッドリスト)」によると、アカメイトトンボやベッコウトンボなど、57種類のトンボが絶滅の危機にさらされている。
※環境省が2020年3月に発表した「絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト(レッドリスト)
https://www.env.go.jp/content/900515981.pdf

産卵するムカシトンボ(提供:トンボと自然を考える会)
産卵するムカシトンボ(提供:トンボと自然を考える会)

■日本一のトンボ保護区 高知県四万十市

 全国的に減り続けるトンボを保護すべく、自然環境を守り続けている場所が、高知県の四万十市にある「トンボ王国」。トンボ王国は、世界初のトンボ保護区で、1985年6月に世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)の支援を受け開設。水辺作りや植物の管理などを継続的に行い、2014年春に国内外のトンボ学会から「日本一のトンボ保護区」の認定を受け、現在では81種のトンボが記録されている。

人手により管理される自然豊かなトンボ王国
人手により管理される自然豊かなトンボ王国

 トンボ王国の自然環境は、公益社団法人「トンボと自然を考える会」が守り続けている。生物多様性に優れた里山を守るために同会では、草刈や日照を維持するための木々の伐採、外来植物の排除、池の整備など積極的に人手を加えている。自然環境の保全には人手を入れないことが良いと思われがちだが、実は人手が入らない里山は荒廃し、そこに住む生物が減り、環境は悪化していくという。トンボ王国の広大な里山は、同会のメンバー4人により日々管理され、会の活動に賛同する会員やボランティアが支えている。

■トンボ王国で行われている教育体験プログラム

 トンボ王国では、四万十川の水とトンボから自然と人々の暮らしを考える、教育体験プログラムが始まっている。プログラムは、事前学習から体験、事後学習を通じて、持続可能な社会の創り手の育成を目的にしたもので、体験学習では、座学、フィールドワーク、ゲームなどにより、トンボを題材に里山の生態系を学ぶ。体験学習は通年行われ、1回の定員は20~80人までで、約3時間のプログラムだ。SDGs教育の一環として小中学校からの問い合わせが増えているという。

 体験プログラムを企画・運営する、「トンボと自然を考える会」の杉村光俊・常務理事は「SDGsに関心が高い子どもたちは、環境破壊が進むことに危機感を抱き、アクションを起こさなければならないと考えている。生き物とふれあい、自然の楽しさを知ってもらうことで、理論的に環境保全ができる人を育てることに寄与したい」と語る。

おいしいお米がとれる田んぼに生息するミヤマアカネ(提供:トンボと自然を考える会)
おいしいお米がとれる田んぼに生息するミヤマアカネ(提供:トンボと自然を考える会)

 
 真夏でも水温が高くならない水田地帯を好むミヤマアカネがたくさんいる田んぼのお米は安全でおいしい、チョウトンボが逆立ちしていたら熱中症に注意、など私たちの健康を守るヒントをトンボは教えてくれる。
 トンボの保護活動を通じて、生息する棚田や里山の整備による治水、食の安全、地球温暖化など、子どもたちが身近な課題として考え、行動するきっかけになると同会は考えている。

■高知県幡多地域の教育体験プログラム

 高知県の西南に位置し、6市町村からなる幡多地域(四万十市・宿毛市・土佐清水市・黒潮町 ・ 大月町 ・ 三原村)では、自然と人との共生をテーマに、「山から川、そして海へ」と循環する水に着目した教育体験プログラムを企画、実施している。

イメージ(幡多広域観光協議会提供)
イメージ(幡多広域観光協議会提供)

 柏島の浜辺で行われているフィールドワークでは、大きさが1cm以下の微小貝を探し、生息を確認することからはじまり、私たちの生活から出されるマイクロプラスチックなどの漂着ゴミを調べる。大自然の中で、その自然の恵みと私たちの生活ゴミが海の環境や生態系に与える影響を考えるプログラムだ。大月町の柏島は、太平洋と豊後水道に面し四国西南端に位置し、周辺の海では1000種を超える魚が生息。エメラルドグリーンの透き通った海は、船が空中に浮かんでいるように見えるほどで、美しい海を未来に残すために、子どもたちが自ら考え、行動することを目的としている。

 土佐清水市の竜串海岸は、日本初の海域公園で、国内最大級のシコロサンゴが生息する「竜串海域公園」に位置し、砂岩が波食や風食を受けて形成された海食台地が広がる。約1700万年前に浅い海でできた地層が潮風や波に洗われることによってできた海食台地の中にある「潮だまり」では、竜串湾の豊かな生態系を支える、さまざまな生物を観察することができる。また、足摺海洋館「SATOUMI」で海域公園周辺の環境や生息する魚類を知るとともに、山々から川、海に流れる水によって、豊かな海とその生態系が維持されることを学ぶ。

 幡多地域では今後、5つの教育体験プログラムを企画する計画だ。幡多地域の美しい自然と、そこに暮らす人々に継承されてきた文化を通じて得られる学びや体験には、たくさんの魅力が詰まっている。子どもたちは、そこで得た学びを行動につなげ、未来に向けて生かしてくれるに違いない。