スポーツ

新しい発見に喜び マラソンに挑戦、パラ水泳の木村敬一

ゴールをする木村敬一(左)と伴走者の福成忠さん。
ゴールをする木村敬一(左)と伴走者の福成忠さん。

 多様性と調和を掲げた東京オリンピック・パラリンピックの1周年記念事業として、第1回「東京レガシーハーフマラソン」が10月16日、国立競技場を発着点にして開かれた。パラリンピックのマラソンコースを使い、トップクラスの選手からパラアスリート、市民ランナーまで約1万4千人が参加。パラリンピックの競泳男子100メートルバタフライで金メダルを獲得した全盲の木村敬一(東京ガス)も、舞台を水中から陸上に代え、初めて挑んだ。無事、完走し「しんどかったけど、大歓声の中で走れたのは幸せ。楽しい冒険だった」と、心弾む経験を振り返った。

アシックスが全面支援

 「新しいことに挑戦したい」と考えていた木村が舞台を水中から陸上に変え、今回初めてマラソンにチャレンジ。本番まで1カ月半と準備の時間は少なかったが、東京オリパラの組織委員会と最上位のゴールドスポンサー契約企業であり、本大会のスポンサーであるアシックスが、社内に視覚障がい走者の伴走経験がある社員と体調管理やランニング指導の専門知識を持つトレーナーがいたことで、全面支援。トレーナーの森川優さんは「1カ月半で準備は無謀とも思えたが、木村さんは脚力、筋力があるので、けがなく予定をクリアできた」と話し、伴走役の福成忠さんも「走ることを怖がっていた木村さんには、安心してもらえるよう気を使った。練習を見る限り、完走は十分可能」と太鼓判を押し、調整が順調に進んだことを明らかにしていた。同社では同時に、車いすマラソンに初挑戦する日体大の学生パラ陸上選手、車いす短距離が専門の笹原拓歩と、両足が義足の短距離走者、湯口英理菜の2人もサポートした。

新しい発見に喜び

 迎えたレガシーレース本番。笹原は自己ベストを1分30秒縮める58分12秒でゴール。1週間前に家族を亡くし練習どころではなかったそうだが「ホテルへの移動や選手の受け付け、食事の手配とか、レース出場だけではない細やかなサポートでレースに専念できた」と感謝した。障がい者にとって、レース前の諸々の準備は大切だが集中力をそぎがちだ。湯口は1時間24分56秒で完走した。初めての車いすレースに疲れ切った表情だったが「自分の力を出し切れば、いい結果を出せる。来春、社会人になっても、自分に負けずに仕事にチャレンジしたい」と、感無量の様子だった。

 知名度が高い木村の挑戦は、注目を集めた。沿道の観客や一般参加のランナーは「木村だ。頑張れ」と声援を送った。2時間23分2秒で完走。したたる汗をぬぐいながら木村は「めちゃめちゃしんどかった。足の痛さを忘れるくらい疲れた。プールの中のように脈はすぐには戻らない」と、ユーモアに富んだ感想に、大勢集まった報道陣からは笑みがこぼれた。さらに今回の挑戦を「あらゆる面で楽しい冒険だった。今は新鮮な気分。自分の中で新しい発見をしていくことが、わたしの喜びです」と、前向きな言葉で表現した。

「新しい発見をしていくことが、わたしの喜び」と語る木村敬一。
「新しい発見をしていくことが、わたしの喜び」と語る木村敬一。

共生社会実現、大会後が重要

 アシックスの今回の試みの責任者で2021年末まで8年間、オリパラを担当してきた君原嘉朗パラスポーツ企画部長は「弊社はスポーツにかかわる会社ですが、共生社会の実現に向け、すべてのスポーツをサポートできていたかは疑問でした。今回は新しい選手に挑戦してほしいというのが大会コンセプトでしたので、最も印象に残っている木村選手にお願いしました。オリパラは大会が終わってからが重要。盛り上がりを継続することが何より大切です」と総括。未来へ何を伝えるか、企業としての心構えを示した。