ミャンマーの「Z」と「LEE」

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配布されるモロトフ(モロトフのフェイスブックより)

 ミャンマーで国軍によるクーデターが起き、大規模な市民の抗議運動が起きてから3カ月が過ぎた。国軍が殺害した市民は700人を超えたこの間に、有名になった二つの単語がある。「GZ」と「G―LEE」だ。

 二つの単語の「G」はいずれもGeneration(世代)の頭文字である。GZは、1990年代後半以降に生まれ、インターネットやスマホと共に育った「デジタルネーティブ」といわれる「Z世代」を指す。国軍への抗議運動では、ネットを通じて台湾や香港で民主化を求める若者たちと連携し、新たな運動手法を繰り出しながら、抗議デモの最前線に立ち続けている。

 一方、「G―LEE」は、GZが猛烈に非難する人々だ。「LEE」はビルマ語で男性器を意味し、国軍にへつらう40代から50代を指す俗語なのだ。ユーチューブにアップされた、国軍を痛烈に批判したラップ音楽のタイトルは「LEE Coup(LEEのクーデター)」。「卑劣な行動でわれわれを黙らすことはできない」と歌う。

 国軍は国営メディアを通じ、「若者たちよ、抗議運動を続ければ頭部を撃ち抜かれることになる」とGZに警告したが、効果はなかった。国軍のいら立ちは募り、市民への攻撃はさらにエスカレートし、メディアとインターネットの規制も強化された。それに対し、GZは「地下出版」で対抗し始めた。「市民と運動をつなぐために」と創刊したニュースレター「MOLOTOV(モロトフ、火炎瓶の意)」は、インターネット版とプリント版があり、瞬く間に広がっているという。AFP通信が配信した動画では、モロトフの編集者が「われわれの誰かが逮捕されても、殺されても、若者の誰かが引き継ぎ、春革命(民主主義を求める今回の運動)が成功するまでモロトフは続く」と語る。

 その意志の固さと情熱、忍耐強さに感銘を受ける。だが、胸も痛む。真っ直ぐに怒りを表現し理想のために行動する若者たちは、いつの時代にも力を保持する側の標的になってきた。思い出すのは、トルコ南東部のクルド人の町ジズレで2016年に起きた国軍による虐殺である。「テロとの戦い」の名目でトルコ軍と治安部隊がこの町を攻撃する直前に、約50人の大学生ら若者が「人間の盾となり国軍から市民を守る」と町に入った。軍は、若者たちを見せしめのように残虐に殺害したのだった。

 ミャンマーの国軍に対抗して発足した「挙国一致政府」のジィモン防衛大臣は「GZを含む市民は、国軍に対する最後の段階への準備をしている」と記者会見で述べた。「ミャンマーの状況は2011年のシリアのようだ」とバチェレ国連人権高等弁務官は警告し、国際社会に行動を求めている。

 国際社会が挙国一致政府への支持を打ち出さなければ、強大な武器を持つ国軍はGZら市民を「暴徒」としてさらに虐殺する可能性がある。それを止める責任は「アジア最後のフロンティア」と経済利益を求め民主化道半ばだったミャンマー に群がった、日本を含めた各国にもあるはずだ。

 ジャーナリスト 舟越 美夏 

 

(KyodoWeekly5月3&10日号から転載)