“未知のウイルス”が世界中を大きく揺さぶったコロナ禍が、ようやく国内でも落ち着いてきた。シンポジウム「感染症との絶え間なき闘い」が5月30日、東京都内で開催され、感染症やワクチンなどの専門家たちが登壇。感染拡大防止のため、国内で推奨される対策として「マスク着用」「三密(密閉・密集・密接)回避」「日常生活で触れるものの除菌や消毒」などに取り組んできた3年間を振り返った。大下財団(広島市)主催、フマキラー(東京)共催。
広島大学大学院医系科学研究科の坂口剛正教授は、「新型コロナウイルスの流行と変異」のタイトルで講演。まず、「インターネットで流行状況の共有や、コロナウイルスのゲノム解析などが迅速で、テクノロジーの進化がすごかった」と3年間のコロナ禍を振り返った。研究拠点の広島県の患者からウイルスを分離培養、塩基配列を解析してきた同氏。当初、症状が出る前からウイルスをまき散らし、2020年1月時点で致死率3%と100人に3人が亡くなる恐怖を与えていた新型コロナウイルスが、何度もの感染の波やたくさんの人が感染する中でウイルス自体が生き残るために変異。2022年にオミクロン株が出現してからは弱毒化し、特徴的な症状だった味覚・知覚障害がなくなり、重症化しにくくなったと指摘した。最新の国の情報では60歳未満の致死率0.01%で季節性インフルエンザと一緒になってきているとし、「いよいよこの新型コロナウイルスの流行も終わったなと感じている」と話した。
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門の石井健教授は「コロナ禍で進むワクチン開発の破壊的イノベーション」をテーマに、ワクチンについて解説。「新型コロナ禍において、感染を経験した人・していない人、ワクチンを打った人・打っていない人がいて、ウイルスも変化を続けてきた中、人々の免疫はバラバラ。どのワクチンを接種するかどうかなどは個々の判断によるもの」と述べた。また、ワクチンの効果である「免疫原性」「有効性」「有用性」について、メディアでも整理して伝えられていないと指摘。専門家が一番重視しているのは「有用性」(集団免疫・医療経済効果など)で、“社会にワクチンができたことで人々がどれだけ救われたか”ということを社会科学的に検証することだと解説した。
石井氏は、一般的に10年かけて作るといわれているワクチンを、新型コロナについてはなぜ1年で作れたのかについても言及。「スキップした試験は1つもなく、直列でやることを並列でやり、非常に多くの苦労と費用がかかった」と振り返った。2年前のG7(G7サミット、先進7カ国首脳会議)で、今後新たな感染症に対し、100日以内にワクチン開発や治療法を確立することを目指す「100 Days Mission」(100日ミッション)が打ち出されたことにも触れ、「ワクチンによる病気の予防は、過去最も成功した医療技術の1つ。100 Days Missionを達成するために自分たちも尽力していきたい」とした。
また、石井氏は、世界のワクチンの値段格差や、ワクチンの安全性への不安や摂取へのためらいを持つ「ワクチン忌避」についても、“グローバルな問題”だと指摘。そして、ワクチンの大切さを訴えるとともに、新型コロナ対策として「マスク・手洗い・うがい・換気」が非常に大きな効果をもたらしたことを付け加えた。
山口東京理科大学の尾家重治教授(薬物治療学・感染制御学)は、「院内感染事例とその対策」として講演。市販の水やお茶にも菌が存在することへの認識の低さ、除菌率の高さをうたう洗剤や入れ歯洗浄剤などへの過信に警鐘を鳴らした。ある病院内で使われているスポンジの100個中30個が緑膿菌だらけだったり、洗浄剤を過信した入れ歯が感染源の感染症が発生したり、注射薬の汚染が原因で感染症が悪化してしまった患者の事例などを挙げ、正しい除菌や消毒の重要性を訴えた。
コロナ禍で“除菌・消毒”が日常的になったが、果たして正しい方法で行われてきたか――。これに対し、殺虫剤・除菌剤を主力とするフマキラーの応用開発研究部主任・進藤智弘氏は、確かに効果がある製品を届けるためのルール化の必要性に触れ、必要な時に必要な人に除菌剤などの商品が広く届くようメーカーとしても対応していきたいとした。
最後に坂口教授は、「将来のパンデミックに備え、検査やワクチンを必要な人が受けることができ、一般の人が生活の中で除菌や消毒などの対策をしっかりできるよう、私たちも各分野で頑張っていきましょう」と締めくくった。