日本画の技法も取り入れた独自の画風で知られる中国吉林省出身の⽔墨画家、曹亜鋼(そう・あこう)さん(62)が、長崎県西海市のアトリエで自身最大の巨大な水墨画の制作に挑んでいる。東京都内でこのほど開かれた曹さんの制作発表記者会見には、音楽家の⼩室哲哉さん(64)が激励に訪れ、「完成が楽しみ」と巨大水墨画という新たな境地を目指す曹さんの挑戦にエールを送った。
水墨画は、1枚およそ縦3.65メートル、横9.2メートルの大きさになるという。曹さんがこれまで好んで描いてきた富士山や松などを描き込んでいく予定だ。「水墨画を鑑賞した人が元気になり、感激するスケールの大きな水墨画にしたい。9月ごろの完成を目指す」と完成への意気込みを語った。
「小室サウンド」といわれる“時代の音”を作り上げ、現在も人工知能(AI)など最新技術を活用した音作りに関心を示す小室さんは、冨田勲氏や坂本龍一氏ら日本の優れた音楽家の背中を見ながら音作りに挑戦してきた自身の歩みを振り返りながら、一定の境地に満足せず常に前に進む曹氏の制作姿勢をたたえた。
小室さんは、ことし3月に亡くなった坂本龍一氏の影響について「僕の中では、坂本さんは、こういう音楽家も日本にはいるという、“日本人の音楽家の誇り”ともいうべき存在だった。大きな影響を受けたつもりはなかったが、年齢の近かった坂本さんの発想は、“教授”困っちゃうんだけどと思うくらい、音楽を作るとき、どうしてもいまだに浮かんでくる」と話した。
現在注目している音楽家として、映画『ライオン・キング』のテーマ曲でアカデミー賞作曲賞を受賞した作曲家のハンス・ジマー氏の名を一例として挙げた。「憧れる存在をいつまでも持っていることが必要。ハンス・ジマー氏はほぼ同年齢の人。遠いけれども(自分も)できなくはない距離の人を見つけて、音楽を作っている。やっぱり(自分より前を行く)背中を見られる人が必要なんです」と高みを目指して歩み続ける大切さを強調した。
このような小室さんの話に、共に人々を感動させる作品を目指す制作者、芸術家として“共通の姿勢”を感じた曹さんは「私の水墨画と小室さんの音楽で何かコラボレーションできたら面白いことが出てきそう」と絵と音楽の“共演”に向けた希望を語った。
小室さんは「映画音楽とは異なり、絵と音楽が一体化することはそれほど簡単ではないが、曹先生が絵の制作に没入することをお手伝いできる音楽などが考えられるかなあ」などと応じた。
1988年の来日以来、日中美術界の架け橋として活躍してきた曹氏の巨大水墨画の完成とともに、コンピューターをいち早く音作りに取り入れて一般大衆を楽しませる音楽を作り続けてきた希代のヒットメーカー小室さんの、絵との融合に向けた新たな試みにも期待したい。