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【週末映画コラム】カメラを回すという行為をひたすら見せる『愛にイナズマ』/どんでん返しが連続する多重構造のストーリー『ドミノ』

『愛にイナズマ』(10月27日公開)

(C)2023「愛にイナズマ」製作委員会

 26歳の折村花子(松岡茉優)は幼い頃からの夢だった映画監督デビューを目前に控え、気合十分。そんなある日、花子は魅力的だが空気が読めない舘正夫(窪田正孝)と運命的な出会いを果たす。

 だが、花子は理不尽な理由で監督の座を降ろされ、失意のどん底に。正夫に励まされ、泣き寝入りをせずに闘うことを決意した花子は、10年以上音信不通だった“どうしようもない家族”のもとを訪れ、父の治(佐藤浩市)、長兄の誠一(池松壮亮)と次兄の雄二(若葉竜也)にカメラを向けて、映画を撮るという夢を取り戻すべく反撃を開始する。

 『舟を編む』(13)『アジアの天使』(21)などの石井裕也監督がオリジナル脚本で描いたコメディードラマ。全体を「プロローグ」「チャプター1・酒」「チャプター2・愛」「チャプター3・カメラ」、「チャプター4・家族」「チャプター5・お金」「チャプター6・神様」「チャプター7・雷」に分けているところは小説風だが、実はカメラを回すという行為をひたすら見せる作品。

 前半(約1時間)は、時折映る父以外は全く家族を登場させずに、あらゆるものにカメラを向ける花子の姿を描き、後半は一転して、父や兄にカメラを向ける花子の行動を通して家族の姿を描くという、二段構えの構成がユニークだ。

 そして花子にカメラを向けられた父と兄たちの三者三様の反応(演じる役者たちの好演)、「カメラを向けられると人は演技をする」「演技はうそではなく真実」などのせりふから、映像の本質が浮かび上がってくるところがある。

 また「家族ってよく分からなくて面白い」という正夫のセリフが象徴するように、撮られることによって徐々に家族の本音があらわになってくるところがまた面白い。

 特に、ラスト近く、雷による停電の中、ろうそくを持った佐藤が、子どもたちを見ながら笑顔を浮かべるシーンが心に残る。そして花子の映画のタイトルが「消えた女」(母)から「消えない男」(父)に変わるところが、家族の変化を象徴する。

 映画作りの裏側、脇役・益岡徹の存在、ウィキペディア、コロナ禍のマスク、恐竜オタク、赤へのこだわりなどの、ディテールも楽しい。