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SABU監督「誰でも発信できる時代だからこそ、受け止める側にも優しさが必要」韓国初進出となったサスペンスに込めた思い『アンダー・ユア・ベッド』【インタビュー(前編)】

 孤独な男・ジフン(イ・ジフン)は、学生時代から忘れられない女性イェウン(イ・ユヌ)を探し出すと、彼女の家にカメラを仕掛け、その生活を24時間監視し始める。それによってジフンは、彼女が夫のヒョンオ(シン・スハン)から、激しいDVを受けていることを知るが……。

 2019年に高良健吾主演で映画化された大石圭氏の同名小説を、韓国で再映画化したサスペンス『アンダー・ユア・ベッド』が全国公開中だ。監督を務めたのは、デビュー作『弾丸ランナー』(96)以降、多彩な作品を送り出し、海外からも注目を集める日本の映画監督SABU。韓国初進出となった本作に込めた思いとは。

SABU監督(C)エンタメOVO

-韓国初進出作となった本作に携わることになった経緯を教えてください。

 2022年の3月ごろ、本作を制作したミステリーピクチャーズのイ・ウンギョンさんから、監督のオファーがありました。ウンギョンさんとは『Miss ZOMBIE』(13)の韓国での権利を買って、配給を担当してくれたご縁もあり、僕自身がちょうど海外での映画制作を模索していた時期でもあったので、“渡りに船”とお引き受けしました。

-それから制作に参加したわけですね。

 ただ、原作は20年前の作品なので、当時は斬新だったDVの扱い方やカメラで人の行動を監視するような描写は、今となっては目新しいものではありません。しかも、女性に対する激しいDVや性描写を伴うので、“me too”運動を経た今の時代にふさわしいのかという躊躇いも、自分の中でありました。さらにプロデューサーからは、「主人公とヒロインの2人を中心にした原作から、ヒロインの夫にもフォーカスを当て、3人の物語にしたい」という話もあって。そこで、原作ではDVを振るう一面しか見えなかったヒロインの夫が、そうなった原因を描くことで、単純な悪役にはならないようにしました。

-それによって、主人公ジフンとヒロインのイェウン、イェウンの夫ヒョンオの3人による「コミュニケーションの難しさ」という現代的なテーマを持つ作品になりましたね。

 誰もがSNSで気軽に発信できるようになった現代は、昔に比べて意見を言いやすくなりました。それでも、その声がきちんと伝わらない人や、今なお声を上げられない人たちもいるはずです。この作品に登場する3人も、「助けて」と声を上げられずにいる、あるいは過去に声を上げられなかったがゆえに、現在の状況に至ってしまった大人たちです。つまり、誰でも発信できる時代だからこそ、その声を聴く側にも受け止める優しさが必要ではないかと。この作品には、そんな僕の思いも込められています。その点、ジフンのストーカーという行為自体は犯罪ですが、どこか“助けを求めるイェウンの声を聞いている人がいる”という“希望”のような見え方になれば、と考えました。

(C)2023, Mystery Pictures, ALL RIGHTS RESERVED

-監督の作品にはこれまでも、人と人との出会いやコミュニケーションを扱った作品が多く、その点は本作にも共通しています。

 この作品の場合、3人の物語にすることが決まってから、少しでも希望が感じられるようにと知恵を絞った結果ですが、その設定を僕なりにうまく生かすことができたといえるかもしれません。

-激しいDVや性描写を含むR-18+指定の映画でありながら、映像の美しさが印象に残るのも、本作の特徴です。

 もちろん、過激な描写はこの作品に必要な要素なので、そこはきちんと取り組みたいと思っていました。ただ、僕自身はこれまで、コメディーを多く作ってきたように、見た後に気分が沈むような映画は本来苦手です。だから、観客にもできるだけ不快な思いはさせたくなかったので、エログロな作品にならないように気を付け、イェウン役のイ・ユヌさんも、美しく撮ることを心掛けました。

-監督の優しさが表れた言葉ですが、公開を控えた今のお気持ちは?

 誰もが避けるようなテーマや描写に真面目に取り組み、世界中の評論家の方からも評価をいただくことができました。この映画を今の時代に公開できることがとても光栄で、うれしく思います。

後編に続く

(取材・文・写真/井上健一)

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『アンダー・ユア・ベッド』5月31日(金)全国ロードショー