孤独な男・ジフン(イ・ジフン)は、学生時代から忘れられない女性イェウン(イ・ユヌ)を探し出すと、彼女の家にカメラを仕掛け、その生活を24時間監視し始める。それによってジフンは、彼女が夫のヒョンオ(シン・スハン)から、激しいDVを受けていることを知るが……。
2019年に高良健吾主演で映画化された大石圭氏の同名小説を、韓国で再映画化したサスペンス『アンダー・ユア・ベッド』が全国公開中だ。監督を務めたのは、デビュー作『弾丸ランナー』(96)以降、多彩な作品を送り出し、海外からも注目を集める日本の映画監督SABU。前編に続く後編では、韓国初進出となった制作の舞台裏を聞いた。
-ところで、オファーを受けた時、監督はこの作品のどこに魅力を感じたのでしょうか。
これまで日本では難しかったことに挑戦できたのが、この作品を引き受けた大きな理由です。その 一つが映像。今回はスタンダードサイズ(縦横比3:4)の画角で、カメラを固定したフィックスの映像を中心に撮影しています。僕は本来、横長のシネスコサイズ(縦横比1:2以上)が好みなのですが、最近はスマホでの鑑賞を意識したのか、横長の映像で動きの速い映画が増える傾向にあります。でも今回は、主要人物3人のミニマムな物語なので、スタンダードサイズのフィックスで撮った方が、観客を物語に引き込むことができるのではないかと。
-なるほど。
それともう一つ、日本画のように余白を使った演出に挑戦したいというのも、今回考えたことの一つです。細部まで描き込む西洋画と異なり、日本画には余白を使って見る者に想像させることで絵が完成するという考え方があります。それを映画にも応用し、スタンダードサイズの狭い画面で、上に余白のある構図を意識しました。
-オール韓国ロケの作品ですが、ロケ地の選定はどのように?
今回は、まず僕が日本で絵コンテをすべて描き上げた上で韓国に渡り、現地でロケハンして修正するという方法を取っています。撮影は主にソウル近郊の仁川で行いましたが、比較的規制の少ない都市だったので、かなり自由にロケ地を選ぶことができました。日本の場合、どこも似たような感じに整備され、画になる面白みのある場所が少なく、逆に魅力的な場所が多い東京近郊では撮影の許可が下りません。そういう意味でも今回、ロケの自由度が高かったのはありがたかったです。
-その成果もあり、冒頭から映像の美しさに引き込まれますが、映像面では撮影監督の協力も大きかったのでしょうか。
そうですね。元々、この映画はモノクロにするつもりで、その参考として撮影監督に、僕の大好きなモノクロ&スタンダードサイズの『イーダ』(13、アカデミー賞外国語映画賞を受賞したパヴェウ・パヴリコフスキ監督のポーランド映画)を見てもらおうとしたんです。そうしたら、彼も大好きな映画ということで、意気投合して。現場では、終始モノクロでモニターをチェックしていました。最終的には、興行面を考慮したプロデューサーの意見を受けてカラーになりましたが、日本では数日が一般的なグレーディング(映像の色調を整える作業)も、この作品では2カ月近く費やし、撮影監督と共に徹底的にこだわって作業しています。
-制作にあたっては、日本との文化の違いを感じた部分も?
「日本的だ」と指摘を受け、変更した部分もいくつかあります。例えば、劇中にSMクラブを登場させようと思い、絵コンテに描いたところ、スタッフから「韓国にはない」という意見が出て。夕食の時、妻が夫にビールを注ぐ習慣も韓国にはないらしく、「日本的で『サザエさん』っぽい」と(笑)。ただ、その場合も「じゃあ、どうしたらいい?」と新しいアイデアを求めることができたので、刺激的で面白かったです。
-充実した時間を過ごしたようですが、映画完成時には達成感もあったのでは?
そうですね。やりたいことはかなり自由にやらせてもらえました。クランクアップ翌日には日本に帰ってきましたが、「やりきった」という達成感もありましたし。作品の出来栄えにも満足しています。
-海外での映画制作が実現した今、今後の日本と海外での活動のバランスをどのようにお考えでしょうか。
これからは海外が軸になっていくと思います。原作ものが中心の日本では、自分が望むような作品を撮るのは難しいでしょうから。これまでさまざまな映画祭を訪れ、海外に知り合いも増えたので、多少時間はかかると思いますが、いくつかの企画を並行して進める中から、実現するものが出てくれば、と考えています。
(取材・文・写真/井上健一)
『アンダー・ユア・ベッド』5月31日(金)全国ロードショー