まめ学

クラフトみそ、クラフトサケ、発酵生ハム…新発酵文化を体感できるマーケット、阪神梅田本店で開催

 阪神梅⽥本店の⾷祭テラスで8⽉23⽇、「発酵デザイナー⼩倉ヒラクの発酵マーケット 麹/KOJI~クラフトな酒、味噌、醤油~」が始まった。全国から集結した発酵食品はおよそ500種類。発酵文化を扱う食祭テラスでの催事は2回目だが、今回の最大のテーマは「新世代の発酵文化」を集めたこと。東京下北沢で発酵食品のセレクトショップを運営する発酵デザイナーの⼩倉ヒラクさんが、催事のスーパープレゼンターを務める。「もともと伝統的とか健康に良いというイメージがあった発酵文化ですが、今新しい醸造家や伝え手が出てきて、おしゃれで格好良くなってきている。そういう新時代のワクワクするような発酵食品をいっぱい集めた」。

「ロットが少ない発酵食品多いので、見たら買わないと二度と買えないよ」と語る⼩倉ヒラクさん
「ロットが少ない発酵食品多いので、見たら買わないと二度と買えないよ」と語る⼩倉ヒラクさん

 「地元で採れるもので、いかに工夫して作ったかっていうのが、一番原始的なみそなんです」。クラフトみそのコーナーで、みそ文化について詳しく教えてくれたのは五味仁さん。山梨県で明治元年から続く「五味醤油」の6代目で、現在はみそ中心に醸造している。「昔はものを運ぶのが一番大変なので、地元で採れるもの、つまり米どころだったら米をたくさん入れた米みそ」。本州が米みそ、瀬戸内と九州は麦みそ、三河地方は豆みそ…。五味さんが暮らす山梨では、「飛び地的に米と麦が混ざってる。今はモモやブドウなど果樹栽培が多いのですが、その前は蚕の食料のクワを栽培していて、田んぼがあまりなかった。麦は米の裏作で作っていたんです」。

 みその原料は大豆とこうじと塩、と非常にシンプル。だが、現実には多種多様なみそが存在する。その多様性ゆえに、農林水産省がみそを規格化したのは2022年3月、ごく最近のことだ。まず、みその色が多様なのは発酵期間が異なるため。「原料に関係なく、熟成すればするほど赤みそになる。2週間でできる“白みそ”もあれば、3年かかる“赤みそ”もある」。次に、発酵食品をつくるのに欠かせないこうじの量や種類で味が変わる。「でんぷん質のこうじが多いと甘みが増す。秋田のみそは、めちゃめちゃ甘い米みそ」。みそに使うこうじには主に、米こうじ、麦こうじ、豆こうじの3つがあり、山梨のみそは米こうじと麦こうじを用いている。「作る方から言うと、2種類のこうじを作るのは面倒。でも、昔からなじんでいるから作り続けてる。メーカーがあんまりないので、うちらが止めちゃうとなくなっちゃうかもしれないと思って」。

 全国で最も流通しているのは米みそだ。現在、みそメーカーのトップ3は長野県のメーカーが占めているが、信州の米みそが全国に広まったきっかけについて教えてくれた。その昔、「買いみそは恥」といわれ、家庭や地元で作るものだった。しかし、太平洋戦争や関東大震災が転機に。「みんな食べるものがなくなって、長野のメーカーが頑張って東京に供給したんです。大変な時に米みそを食べたから、“信州みそはうまい”となった。それで、信州みそというブランドができた。ここ100年ぐらいの話なんですよ」。みそメーカーの数も、山梨の10社に対して長野には200社ほどあり、「県外に出すしかない」現状もあったのではと話す。

 とはいえ、みそ屋をなりわいとして成立させることは厳しいのが現状。五味さんの周囲でも、みそ屋の廃業が続いている。だが、昨今の消費者動向には変化も感じているという。「3・11以降、みんな食に興味を持ち始めて、とりあえずみそを作ろう、みたいな人が多くなった」。みそに将来性も感じている。「同じ配合でも違う蔵で漬けたら味が変わってしまう。いい意味で同じものを作れない。日本は縦長で地域性もあるから、そういう意味でも同じものがない。それが、みその魅力の一つ。そういう意味では生き残れるのではないか」。

山梨県の五味醤油の五味仁さん。沖縄県の玉那覇味噌醤油の「首里みそ」(左)と五味醤油の「甲州みそ」
山梨県の五味醤油の五味仁さん。沖縄県の玉那覇味噌醤油の「首里みそ」(左)と五味醤油の「甲州みそ」

 催事場には、発酵おつまみを買ってクラフトサケを試飲できるカウンターが設けられている。クラフトサケについて教えてくれたのは、滋賀県でクラフトサケを作っているハッピー太郎さんだ。「日本酒づくりの技術をベースとして、他のプロセスを取り込んだ、少し新しい表現のお酒のことを“クラフトサケ”というふうに僕らが定義付けました」。

 クラフトサケが生まれたのには、製造免許問題に絡む事情がある。「国産米を原料として国内で製造された清酒」と定義される日本酒の生産には製造免許が必要だが、国税庁が国内向けの製造免許を新規に交付していないからだ。「日本酒業界に、お酒を作りたいと思う蔵人(くらびと)が入ってきても、法律上、新しい免許が下りない。だから、クラフトビールのように独立する人を聞いたことがなかった。でも数年前、“ボタニカルSake”といって、お米以外の材料を入れることで日本酒じゃないと認められ、自分の醸造所を持つ人が現れた。それを見て、他の人たちも参入して行ったんです」。

 ハッピー太郎さん自身も12年間、日本酒業界で修業を積んできた。「僕も起業したいと思った時に、お酒は作れないと思い込んでいました。それで、すぐに始められる“こうじ屋”を始めたんです。こうじは農産物の一次加工ということで、保健所の許可もさほど厳しくないので」。こうじ屋で作るのは「こうじ、甘酒、みそ、滋賀県のふなずし」。要するにノンアルコール業界だ。そこで衝撃を受けた。「日本酒業界にいたときは、世界中の人がお酒を飲めると思っていました(笑)。でも、こうじ屋を始めてみると、客層が全然違ったんですね。小さなお子様をお持ちの方が“甘酒やみそを作りたい”、闘病中の方が“食を変えたい”とか」。こうじの購入者から、クラフトサケづくりのヒントを得た。「塩こうじにスパイス入れたり、甘酒にはフルーツを入れたり。そういうことって、クラフトサケが生まれる前から家庭の主婦がしていたんです」。こうじ1キロを毎月買う人は、1万人に1人も満たないほどニッチな食材である分、購入者は一心不乱にこうじの可能性を追求していたという。「こうじをいかに料理に落とし込むか。必死ですよ、家族や子供が食べてくれないと意味がないから。それを、こうじを買ってくれた人から学んだ」。

 ハッピー太郎さんが作るクラフトサケは、日本酒で必須である醸造の仕上げの「搾(しぼ)る」工程のない「どぶろく」や、原料以外の副原料を混ぜたもの。「今は、通常のどぶろくも作っているんですが、米とは別の材料を入れたサケを作っています。副原料を大量に使っている、分かりやすいどぶろくです」。

クラフトサケを作るハッピー太郎さん。煎茶を仕込み水にして抹茶ラテのような味わいに仕立てた煎茶のどぶろく(左)とフレッシュハーブティーのどぶろく。
クラフトサケを作るハッピー太郎さん。煎茶を仕込み水にして抹茶ラテのような味わいに仕立てた煎茶のどぶろく(左)とフレッシュハーブティーのどぶろく

 おつまみとして人気の生ハムやサラミも、実は発酵食品だ。ジャンボン・ド・ヒメキの藤原伸彦さんは、大阪の高級フレンチレストランで4年弱シェフをしていた経験がある。その後、たまたま実家のある長野でレストランの立ち上げに関わり、さらにハムを作れないかと持ちかけられたことがきっかけで、長野で生ハム作りを始めた。「生ハムで一般的に知られているのはイタリアの“プロシュート”と、スペインの“ハモンセラーノ”。プロシュートは積極的に菌漬けしないが、ハモンセラーノは菌漬けをして熟成させていて、しょうゆのこうじ菌に近いそうです」。

 藤原さんが作っているのは、骨付きの塊である生ハム原木20カ月熟成やサラミなど。「もともとフランスのピレネー山脈辺りのハムとか、ハモンセラーノ系が好きで、そっち系のものを作りたかった」。発酵の関係者から教わりながら試行錯誤し、「しょうゆのこうじ菌」を肉にまぶすことに行き着いたという。「豚のいいものであればいいものほど風味とかうまみとかが出てくる。そこに菌を付けると余計にうまみが出るんです」。藤原さんの生ハムには、同じ発酵食品である日本酒も合うという。「ワインは定番ですけど、生酛(きもと)作りとか山廃作りの日本酒は非常によく合いますね」。

ジャンボン・ド・ヒメキの藤原伸彦さん
ジャンボン・ド・ヒメキの藤原伸彦さん

 「発酵デザイナー⼩倉ヒラクの発酵マーケット 麹/KOJI~クラフトな酒、味噌、醤油~」は8⽉28⽇(⽉)まで。小倉ヒラクさん他が行う発酵セミナー・ワークショップの予約は、阪神梅田本店ホームページ、食祭テラスのページ  https://web.hh-online.jp/hanshin/contents/str/20230823.htmlから。