熱心なファンの間では有名だったが、一般的にはあまり知られていなかったビートルズの音源が復刻された。1963年から69年まで毎年、英国のオフィシャル・ファン・クラブの会員にクリスマス・プレゼントとして送っていたレコード(当時はソノシート)である。
ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターの4人からのクリスマスおよび新年のメッセージが、彼らならではのユーモアもたっぷりに語られている。寸劇、替え歌などの「おふざけ」も存分に聞ける。
63年のメッセージでは、「プリーズ・プリーズ・ミー」が英ヒット・チャートの1位になり、人気テレビ番組「サンデイ・ナイト・アット・ザ・ロンドン・パラディアム」でトリを務め、英国王室を迎えての演奏会「ロイヤル・バラエティー・ショー」に出演するなど、「信じられない」年になったと喜びを爆発させていたジョンをはじめ4人の声が初々しい。
67年のレコードには、ビートルズのクリスマス・ソング「クリスマス・タイム(イズ・ヒア・アゲイン)」が収められている。この歌はビートルズが自分たちの歴史を振り返るという90年代のアンソロジー・プロジェクトで掘り起こされ、彼らの「再結成」第一弾CDシングル「フリー・アズ・ア・バード」に収録されていた。
解散間近の69年にはオノ・ヨーコも登場。かなりの部分をジョンとヨーコのメッセージが占めるなど、ファンには複雑な思いを抱かせる。これがビートルズのファンへの最後のクリスマス・レコードとなってしまっただけに、である。
だが、解散後のビートルたちのクリスマス・ソングの中で最も知られているのは、71年12月に発表されたジョンとヨーコの「ハッピー・クリスマス(戦争は終わった)」だろう。
これは、69年12月15日にローマ、パリ、ベルリン、ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルス、アムステルダム、モントリオール、トロント、東京など世界主要12都市に「WAR IS OVER!/IF YOU WANT IT/Happy Christmas from John & Yoko」と書かれたポスターを一斉に張り出した二人の共同平和キャンペーンを歌にしたものだ。
「戦争は終わる/もしあなたがそう望むなら」というメッセージは、悲しいかな、争いの絶えない世界において、希望を想い描くことの重要さを訴えたことで広く共感を得て、今やクリスマス・ソングの定番となっている。ハーレム・バプティスト教会聖歌隊の子供たちのコーラスも、この作品に重厚さとともに無垢(むく)な味わいを加えている。
ジョンは80年、この歌について次のように語っていた。
「メッセージはいつも同じだ。ぼくらにもボタンを押す人間と同じように責任があるってことさ。何者かがぼくらに力を与えたり、奪ったりするのだとか、何者かがぼくらを戦争に行かせたり、行かせなかったりするとか。天の神は別個の存在だとか、国家や宗教でぼくらはみんな区分けされているとかいう考え方、そんなのは、みんなゴミと同じさ」
「誰かに何かをさせられているから、自分の意思が通せないと考えている限り、世の中を動かせっこないさ」(『ジョン・レノン PLAYBOYインタビュー』集英社)。
かたや、ポールのクリスマス・ソングも今ではすっかりスタンダード化している。79年12月リリースの「ワンダフル・Xマス・タイム」である。シンセサイザーを効果的に使い、季節感たっぷりなムードの中で歌い上げられているハッピーな楽曲である。B面には「赤鼻のトナカイ(レゲエ・バージョン)」が収録されていた。
74年12月に発表されたジョージの「ディン・ドン」もクリスマス・シーズン向けの歌である。「ディン・ドン」(Ding Dong)とは鐘の鳴る音のことで、「ジャンジャン」、「カーンカーン」、「チーンチーン」などと訳せるが、ジョージは「鐘の音とともに古きを送り出そう、新しきを迎え入れよう」と歌った。アルバム「ダーク・ホース」のB面一曲目に収録されていた「自信作」だったが、知名度はいまひとつである。
最後にリンゴ。そのリンゴがやってくれた! 素晴らしいクリスマス・アルバムを作ったのだ。99年にリリースされた『アイ・ウォナ・ビー・サンタクロース』は全12曲すべてがクリスマス・ソングという徹底ぶり。オープニングを飾る「カモン!クリスマス」は力強いドラムスが印象的なナンバー。この歌を含め6曲をリンゴが仲間と書き、残る6曲は「ホワイト・クリスマス」、「ブルー・クリスマス」などのスタンダード曲だ。
このアルバムでは、ビートルズの「クリスマス・タイム・イズ・ヒア・アゲイン」をリンゴがセルフ・カバー。「静かな宵に」という、シタールなどを使ったインド音楽調の楽曲で、この幸せ感あふれるクリスマス・アルバムは締めくくられる。
リンゴが「サンタになりたい」とCDジャケットでもサンタに扮(ふん)しているわけだが、彼の明るいキャラクターはまさにうってつけ。思いがけず(?)ご機嫌なアルバムに仕上がっており、ビートルズ・ファンならばぜひ一聴をおすすめしたい。
(文・桑原亘之介)
桑原亘之介
kuwabara.konosuke
1963年 東京都生まれ。ビートルズを初めて聴き、ファンになってから40年近くになる。時が経っても彼らの歌たちの輝きは衰えるどころか、ますます光を放ち、人生の大きな支えであり続けている。誤解を恐れずにいえば、私にとってビートルズとは「宗教」のようなものなのである。それは、幸せなときも、辛く涙したいときでも、いつでも心にあり、人生の道標であり、指針であり、心のよりどころであり、目標であり続けているからだ。
本コラムは、ビートルズそして4人のビートルたちが宗教や神や信仰や真理や愛などについてどうとらえていたのかを考え、そこから何かを学べないかというささやかな試みである。時にはニュースなビートルズ、エッチなビートルズ?もお届けしたい。