![マザリーヌ図書館](https://d10tw3woq6mt3i.cloudfront.net/wp-content/uploads/2023/11/aa3785fc43c60fe029bc71e6354c1105.jpg)
数十年前まで、図書館には「カード目録」なるものがあった。書名、著者名や発行元、発行年などが記されたカードで、利用者はこのカードを繰りながら、読みたい本の請求番号を書き写してカウンターで本を借り出した。今やほとんどどこもオンライン目録。図書館や家のコンピューターで目的の本を検索できるから、カード目録を収めた引き出し式の棚がなくなっていることすら忘却のかなただった。これを思い出させてくれたのが、パリのマザリーヌ図書館(日本語表記では枢機卿の名前のまま、マザラン図書館としているものも多い)だ。
![今や懐かしい感じの手書きの目録カード](https://d10tw3woq6mt3i.cloudfront.net/wp-content/uploads/2023/11/e7464ac36cfcd9152e572bd194fd6029.jpg)
「ラ・マザリーヌ」と呼ばれているここは、フランス最古の公共図書館。17世紀、フランスに帰化したイタリア人のマザラン枢機卿が個人的に収集した書物のコレクションが元となっている。前回紹介したフランス国立図書館リシュリュー館の場所で1643年に図書館として公開されている。
![マザリーヌ図書館の階段](https://d10tw3woq6mt3i.cloudfront.net/wp-content/uploads/2023/11/8f8ab7a2aa081840f82acaef5df4a90e.jpg)
セーヌ川にかかる橋、ポン・デ・ザールの正面にあるフランス学士院の東翼。正面の階段と入口が荘厳で、脇の入り口はあまり目立たないが、正面横の扉をくぐり図書館訪問の意向を伝えると、衣類やかばんに貼ることができる訪問シールを渡される。これを貼れば見学は自由だ。
![学士院](https://d10tw3woq6mt3i.cloudfront.net/wp-content/uploads/2023/11/dcc0d56a2d539b7a6370b18ff2a80a59.jpg)
中庭から建物に入ると、図書館に上がる階段は、フランスのアカデミーの主流ともいえる新古典主義の造り。周囲にはさまざまな人物の胸像が並んでいる。「BIBLIOTHECA」と掲げられた入り口。小さな受け付けと、両側で迎えてくれるのはカード目録が収められた棚だ。閲覧室に入る前に、しばしこの引き出しのカードを繰ってみる。百年戦争で活躍した14世紀の軍人の名前などがあっという間に見つかり、所蔵資料の時間的な厚みが伝わってくる。
![胸像に見守られる閲覧室](https://d10tw3woq6mt3i.cloudfront.net/wp-content/uploads/2023/11/b62dc41252055e938064bd5036d653a0.jpg)
その先の閲覧室も天井までぎっしりの古い本と、その手前に並ぶ彫像群、マホガニー製のテーブル、シャンデリアなど、歴史ある図書館を肌で感じられる空間。その調度・芸術品の多くは、フランス革命時に押収されたものが多いのだそうだ。
![古い書物が天井までぎっしり](https://d10tw3woq6mt3i.cloudfront.net/wp-content/uploads/2023/11/9fd4cc6d23ecee8bf1ea089b6e628eef.jpg)
現在のこの図書館の所蔵は全部で60万冊、うち9~20世紀の手稿が5034冊、木版活字本2300冊、定期刊行物2600冊などで、中でも興味をひかれるのが「マザリナード」と呼ばれる1万2千点に及ぶ文書だ。17世紀、「フロンドの乱」と呼ばれる反乱がおきた頃の政治的な文書だが、反マザラン、つまりマザランに対する誹謗・中傷が書かれたものがかなりある。マザラン自身が自分を批判する文書を収集していたというわけだ。図書館の見学ツアーに参加すると、この話が一番面白く語られる。カード目録は残されているが、この図書館の目録ももちろんデジタル化はされていて、マザリナードをはじめ、さまざまな資料を実際に手にとりたければネット上で予約することもできる。
(軍司弘子)