スパイス×ダンサブル、マハラージャン　【山崎あみコラム音楽の森】

　「セーラ☆ムン太郎」という曲で2021年にメジャーデビューしたマハラージャンさんは、いつも大きなターバンが目を引く姿のシンガー・ソングライターです。私は「マハ様」と呼んでいます。

　大学院卒業後、広告業界で会社勤めをしてたマハ様は、続けていた音楽活動をどうしても本格化したくて退職しました。社会人時代に、強い劣等感や耐えがたい苦悩、屈辱を経験した結果、「スパイス×ダンスミュージック」というスタイルにたどり着いたそうです。

　ですから例えば「セーラ☆ムン太郎」の歌詞は、かつて味わった過酷な日々が裏地になっているかのようです。「見せかけのヒーローはすぐわかる　本物はいつでも笑われてる」　目立たなくても、コツコツ真面目に生きている人を勇気づけてくれるのです。マハ様の楽曲にはクスっと笑えるセンスも光っていて、つらい現実を、ポップに変換してくれます。

　「君の歯ブラシ」は、別れた彼女の持ち物が家に残っていて、切ない心境の詞で始まる曲なのですが、結局、彼女の歯ブラシで便器を磨くというポジティブ（?）転用。しかも、ミュージックビデオ（MV）では、歌詞にそんな描写はないけれど、ピアスを画びょうにする、靴下でほこりを取る、傘の布をエコバッグに縫い直す、髪を結ぶシュシュで食べかけのポテトチップスの袋を閉じる･･･。彼女の私物をどんどん明るめに再利用していくんです。この曲と「その気にさせないで」のMVは元AKB48の峯岸みなみさんが出演して、連作になっています。

　曲調はもちろんダンサブル。歌詞の笑える世界観と踊りたくなる曲の融合や、どこか懐かし新しい感覚は、日本ですと、レキシ（池田貴史）さんと「サカナクション」を合体させた感じでしょうか。

　名前の由来は、元々「油田LCC」という事務所から声がかかり、油田といえばマハラジャ、と連想が起きたかららしいのですが、今となってはよく分からないようです（笑）。

　私のラジオ番組に何度もゲスト出演してくださっていて、トークセンスも素晴らしいです。と言いますか、真面目に淡々と話すのですが、実はボケている!　会社員時代、ラジオにネタを投稿するハガキ職人「モエチュウ（燃える中途採用）」として、そのかいわいでは知られた存在だったそうです。

　最新曲「ゾーンに入ってます。」のMVでは、いつもの鮮やかなターバンと違い、グレーで異常に大きなものを巻いているので、何でできているのか尋ねたら「自転車のカバーです」。これはボケではなく本当です。とっても多面体なマハ様が生む楽曲やMVを、笑って共感して考察しながら、楽しんでいただきたいです。

【KyodoWeekly（株式会社共同通信社発行）No. 14からの転載】