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「らんまん」長田育恵 「自分で選んだ人生を咲き誇ろうとする人たちの物語」脚本家が語る創作の舞台裏【インタビュー】

-おっしゃる通りですね。

 仮に、ほんの少しでも悲壮感を漂わせたり、「あなたのために」と恩を着せるような文脈が加わったりすると、「自分が犠牲になっている」という印象を与え、物語が台無しになってしまいます。「らんまん」は、全ての植物がありのまま咲き誇るように、自分で選んだ人生を咲き誇ろうとする人たちの物語です。その点、寿恵子も自己実現のため、自ら万太郎をパートナーに選んだわけですから。そういう意味で浜辺さんは、これ以上なくすてきだったと思います。

-全話を通して、特に印象に残ったシーンはありますか。

 すべての人物、すべてのシーンに愛着があり、ひとつを選ぶのは難しいですが、とても印象的だったアドリブがあります。それは、ダンスのレッスンを始めた寿恵子が筋トレをする場面(第48回)のことです。ダンスの先生から「トライ、寿恵子」と促された際、浜辺さんが「寿恵子、トライ!」と台本にないことを言ったんです。寿恵子の大冒険は、最後まで「寿恵子、トライ!」の連続です。その点、あれが自分の足で社会に踏み出した寿恵子の産声になると同時に、期せずして全編を通した寿恵子のテーマを語ってくれていて。運命的ともいえる偶然に、深く感動しました。

「らんまん」(C)NHK

-視聴者からの好評をどう受け止めていましたか。

 とてもうれしかったですし、執筆の励みにもなりました。ただ、ネットの感想を過剰に受け止めて自分が揺らいでしまうと、制作チームに迷惑をかけるので、その辺は気を付けていました。とはいえ、作品に込めた思いをきちんとくみ取ってくださったり、美術チームが用意してくれた小道具までフォローしてくださったり、皆さんが高い熱量できめ細かな受け取り方をしてくださったことは、とてもありがたかったです。「明日も楽しみ」という声を目にしたときは、同じような思いが脚本家になった私の原点だったので、自分自身がそんな物語を紡ぐ側になれたことをうれしく思いました。

-最後に、番組を楽しんでいる視聴者への言葉をお願いします。

 「らんまん」には、万太郎が生きとし生けるもの全て、ありのままの特性を見つめ、それを愛し抜くまなざしが全編で貫かれています。そのため、万太郎と寿恵子だけでなく、すべての登場人物が自分の冒険を続けていくことになります。みんなの人生が咲き誇る物語。その行方をぜひ最後まで見守ってください。

(取材・文 / 井上健一)