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「社会をよくしていきたいという思い」 データサイエンスを通じた価値創造を 大阪成蹊大学・中村佳正学長インタビュー

シンポジウムでのパネル討論会

 学校法人大阪成蹊学園が運営する大阪成蹊大学は4月、データサイエンス学部を新設した。約2年前から、データサイエンス学部設置準備室長として取り組んできた、中村佳正学長が、「データサイエンスとはなにか」「どのような形で社会に役立つのか」をテーマに語った。このほか、データサイエンスを学びたいという高校生には「この社会をよくしていきたい思いがあれば、向いている」などとメッセージを贈る。

談笑する中村学長(大阪成蹊大学提供)

生成AIの誕生

 ―そもそもデータサイエンスとは?

 中村 情報分野との関係で考えるとわかりやすいと思います。狭い意味でのデータサイエンスは、情報処理、AI(人工知能)、統計学から成り立っています。情報処理やAIの授業は、大学の情報系学部でも開講されていますが、統計学の体系的な授業が必ずあるのがデータサイエンス系学部となります。

 一方、広い意味でのデータサイエンスは、先ほどの情報処理、AI、統計学に加え、ビジネス、エンジニアリングへの応用も含んでいます。ビジネスまで含む情報系学部は少ないので、従来の情報系学部とデータサイエンス学部の違いが、ここにもあります。

 まとめますと、データサイエンスは、情報処理、AI、統計学を基礎とし、ビジネス、または、エンジニアリングを通じて、社会で受け入れられる新しい価値を創造する学問といっていいでしょう。真理の探究や新たな知の獲得を目的とするいわゆる「理系学部」とは少し違うところが特徴といえます。

 ―この社会でデータサイエンスが、どの分野で、どのように役立っている?

 中村 データサイエンスは、ビジネス、または、エンジニアリングを通じて社会で受け入れられる新しい価値を創造する学問です。受け入れられつつあるデータサイエンスによる新しい価値は非常に多く、その中から一つ選ぶことは難しいことです。ここでは最近、大きな話題になっている生成AIの誕生について述べましょう。

 生成AI(対話AI)は、インターネット上にある過去の膨大な量のデータLLM(大規模言語モデル)について、トランスフォーマーを多段に積み重ねたニューラルネットワーク構造に基づいて、シーケンス内の各単語とその他の単語との関連性を事前に機械学習します。

 その上で、プロンプト(指示文)に対して、要約、テキスト生成、分類、自由形式のQ&A、情報抽出などをある価値判断に基づいて行い、会話、ストーリー、画像、動画、音楽など、新しいコンテンツやアイデアを作成する人工知能の一種です。

 言語についてはオープンAI社のChatGPT(チャットGPT)、画像についてはStability Ai社のStable Diffusionが有名です。定型的な業務の効率化に使えますが、それだけではなく、生成AIは、テストアプリケーション、特に欠陥やエッジケースなど、テストデータセットにはあまり含まれないデータの合成データ生成にも使用でき、従来にない業務もこなせるようになります。

 政府のデジタル庁などでは秋から国会答弁の下書きや、議事録作成などで生成AIを試験的に利用すると報じられています。このように社会のいたる所で利活用されようとしています。以下は私とChatGPT3.5とのやりとりです。

       ◇    ◇    ◇    ◇

 Nakamura: チャットGPTが、社会のどの分野で、どのように役立っているのか、具体的に教えてください。

 Chat GPT3.5: チャットGPT(GPT-3.5)は、さまざまな分野で社会に役立っています。以下に、具体的な分野とその活用例を挙げてみます。

 1.教育分野

 ・学習支援:GPT-3.5を利用したチャットボットは、生徒や学生に対して質問応答形式で教科書や教材に関する情報を提供します。個別の学習ニーズに合わせて、疑問点を解消し、学習の理解を深めるサポートが期待できます。

 ・自動教材生成:教育コンテンツの自動生成にも活用されており、多様な教材を効率的に作成することが可能です。

 2.カスタマーサポートとビジネス

 ・カスタマーサポート:企業がGPT-3.5を活用したチャットボットを導入することで、24時間365日のカスタマーサポートを提供できます。顧客の問い合わせに対して、即座に回答や解決策を提供することで、カスタマーエクスペリエンスが向上します。

 ・セールスとマーケティング:GPT-3.5を使ったチャットボットは、顧客との対話を通じて商品やサービスの説明や推薦を行い、購買意欲を刺激する役割を果たします。

 3.医療分野

 ・疾患診断と治療:医療従事者がGPT-3.5を利用して医療情報を検索し、症状や治療法に関する補助的な情報を得ることができます。

 ・パーソナライズドな医療アドバイス:患者とのインタラクションにおいて、医療情報の理解をサポートし、治療計画や生活スタイルのアドバイスを提供します。

 4.自動運転技術

 ・自動運転車の制御:GPT-3.5を自動運転システムに組み込むことで、自動運転車が周囲の状況を理解し、適切な行動を選択する能力が向上します。

 5.コンテンツ生成

 ・文章の生成:GPT-3.5は文章生成に優れており、記事やレポートの自動生成が可能です。ジャーナリズムやコンテンツ制作の分野で活用されています。

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 これらは一部の例であり、実際にはさまざまな分野でGPT-3.5が活用されています。自然言語処理の進展により、より多様で効果的な応用が増えることが期待されます。ただし、技術の利用に際しては、倫理的な考慮やプライバシー保護の重要性も忘れてはなりません。

 

データサイエンス学部での授業風景(大阪成蹊大学提供)

▽人口減少を補う

 ―国内の大学院・大学でデータサイエンス関連の学部の新設が相次いでいるが、その背景をどのようにみている?

 中村 大学個々の判断でのデータサイエンス系学部の新設(2017年から2023年)を後押ししたのは、Society 5.0を推し進めた内閣府主導の第5期科学技術基本計画(2016年から2020年)、とりわけ、「AI戦略2019」が大きかったと思われます。

 国が後押しし、産業界もデータサイエンス人材を必要としていることから、10前後の大学でデータサイエンス系の名を冠した学部が新設されました。さらに、2023年になって文科省では「大学・高専機能強化支援事業」を通じた設置・拡充支援(2024年から2032年/予定)に踏み切った。これにより、2023年7月、さらに10以上の大学のデータサイエンス名称の学部・学科の設置構想が支援される見通しになりました。

 今回の「大学・高専機能強化支援事業」を1960年前後の高度経済成長期を実現した(地方国立大学や私立大学の量的拡大を進めた)大学政策以来の政策と評することがあります。1960年前後は、東西の「冷戦」下でありましたが、一方、現在は、米欧と中露の対立など「新冷戦」とも呼ばれる状況で、時代の不思議な符合を感じざるを得ません。

 ただ、1960年前後は日本の人口増加時期にあたり、一方で、急速な人口減少の現在とはまったく違うといえますが、AIの台頭が人口減少に伴う日本の労働力不足を補うものと想定すると、政府が時代の転換点を見据え、大学・大学院教育の政策を強化しているといえるでしょう。

 ―大阪成蹊大学が、データサイエンス学部を設立した狙いは?

 中村 データサイエンス分野に足場をおくGAFAM(グーグル、アップル、メタ〈旧フェイスブック〉、アマゾン、マイクロソフト)と総称されるアメリカの巨大企業群に加えて、中国には中国電信、バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイなどの巨大企業があり、両国はインターネットを介したクラウドコンピューティング産業のイニシアチブを握っています。

 データサイエンスは、個々の産業の盛衰だけでなく、国家の経済安全保障にもかかわってきます。手にするデータ量の大きさにおいて、この二つのデータサイエンス大国が先行していますが、わが国はまったく太刀打ちできないかというと必ずしもそうではありません。

 生成AIを利活用した組み込みソフトや、製品開発ではすり合わせを得意とするわが国の産業界が優位性を出していけるのではないかと期待されています。

 強みはスマホなど端末側で処理するエッジコンピューティングということになるでしょう。実際,NEC、NTT、富士通、日立、ソフトバンクと、サイバーエージェントなどベンチャー系企業の参加による国産の生成AI開発の報道がされています。

 大阪成蹊大学は2022年度までは、経営学部、芸術学部、教育学部、国際観光学部の(芸術系を含む)文系学部ばかりでした。新キャンパスに新棟を建設し、理系新学部を設置することになった時、これまでの理工系学部の歴史的な蓄積がないことを逆に制約がないという強みに変えることを考えて、大阪市内どころか西日本の私大にはまだなかったデータサイエンス学部を構想するに至りました。(京都女子大が今年4月にデータサイエンス学部を新設している)。また、大阪が電子情報系の製造業が盛んなことも考慮しました。

▽「天の時、地の利、人の和」

 ―大阪成蹊大学のデータサイエンス学部の強みは?

 中村 「理工系学部の歴史的な蓄積がないことを逆に制約がないという強みに変える」。これは新設のデータサイエンス学部の専任教員を全員、大阪成蹊大学の外から選考して採用できることを意味しています。データサイエンスのような新しい分野は若手研究者が活躍する分野でもあり、関西の有力研究大学や企業から軸となる教員や若手教員をリクルートできました(人の和)。

 幸い、大阪成蹊大学の経営は安定しており、駅前新キャンパスの建設も予定されていました。大阪市内という(地の利)の良さもあって新任教員の選考は順調に進み、17人の専任教員を擁する本格的なデータサイエンス学部を開設することができました。

 教育内容については、情報処理学会でデータサイエンス・カリキュラム標準(専門教育レベル)を策定した直後の学部設計(天の時)だったため、それに準拠したカリキュラムとすることができました。

 このように、孟子の言う成功の3条件「天の時、地の利、人の和」に恵まれていることが最大の強みでしょう。

 今年8月2日には、大阪成蹊大学、滋賀大学、兵庫県立大学のデータサイエンスの研究者が集まり、シンポジウムを開き、300人以上の参加で大盛況でした。いかに、関心が高いかを裏付けています。

 ―データサイエンスという学問に興味を持つ学生たちに、学長からメッセージを。

 中村 先ほども言いましたが、データサイエンスは、理系的な素養である、情報処理、AI、統計学を基礎とし、ビジネス、または、エンジニアリングを通じて「社会で受け入れられる新しい価値を創造」する学問です。

 「文系と理系にまたがるデータサイエンス」とありますが、それは、ビジネスなどに現れる社会的な課題を、情報処理、AI、統計学という理系的なツールで解決していくという意味で言うことです。

 理学、工学のような純粋な理系は真理の探究や新たな知の獲得を目的としていますが、データサイエンスでは、それに加えて、「社会で受け入れられる新しい価値の創造」が目的なので、理学・工学とは違いがあります。データサイエンスは〝準〟理系といってもいいかもしれません。

 数学やプログラミングそのものを深めていきたいという高校生は理学、工学のような純粋な理系学部が向いていると思いますが、数学やプログラミングを現実の問題に応用して「社会を良くしていきたい」という高校生はデータサイエンスに向いていると思います。なお、〝準〟理系の学部は、他にも、農学・食品学部、心理学部、建築・デザイン学部などがあり、いずれも大きな発展が期待されています。

 学生時代に大事なことは、興味のあることをとことん追い求めることで、自分もやればできるという成功体験を持つことです。小さな成功からでも十分です。自分を肯定できることで自信、勇気、志をもてるようになります。入学の際に未熟だった学生が、胸を張って卒業していくのを見ることが自分にとっての最高の瞬間ですね。

中村佳正(なかむら・よしまさ) 1955年10月9日生まれ、1978年京大工学部卒、83年京大大学院工学研究科博士後期課程修了、工学博士。専門は、データサイエンス、計算数学、応用可積分系。岐阜大学教育学部助教授、同志社大学工学部教授、大阪大学大学院基礎工学研究科教授、2001年京都大学大学院情報学研究科教授、2021年大阪成蹊大学副学長・教授、データサイエンス学部設置準備室長、2023年4月、大阪成蹊大学学長。