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子どもの予防接種にデジタル活用「Digi田甲子園2022」優良事例紹介〈3〉 母子モ株式会社

予防接種管理画面とデジタル予診票画面。予診項目で重複する内容は一括で登録することができる

 デジタル技術を活用して地域の課題解決に成果を上げている地方自治体や民間企業・団体を表彰する「Digi田(デジでん)甲子園」。政府の「デジタル田園都市国家構想」実現に向けた取り組みの一環として2022年度からスタートした。23年度の募集が始まったのに合わせ、22年度「Digi田甲子園 2022冬」の優良事例を紹介する。

 事例紹介の第3回は、ベスト8を受賞した母子モ(ボシモ)株式会社の「母子健康手帳アプリのデジタル予診票を活用した小児予防接種デジタルトランスフォーメーション(DX)」だ。

母子手帳アプリ「母子モ」のホーム画面

 

10種類30本以上

 病院で妊娠の診断を受けた人は、市区町村に妊娠届を提出し、母子健康手帳(母子手帳)の交付を受ける。母子手帳には、妊娠、出産までの記録や、四種混合、ロタウイルスなどの予防接種の記録などが書き込まれる。

 そんな母子の健康に関する重要な情報がまとめられている紙の手帳と併用し、妊娠、出産、子育てまでを継続的にサポートする母子手帳アプリが「母子モ」だ。2023年9月現在で、全国570超の自治体で導入されている。

 母子モ株式会社は今回、母子手帳アプリ「母子モ」を活用し、予防接種の予診票と接種記録をデジタル化するサービスを開発し、千葉県市原市などで採用されている。「Digi田甲子園」では、子育て家庭、医療機関、自治体の手間の削減につながり、安心・安全な予防接種が実現できることが評価された。

 子どもは成長に合わせ、予防接種を計10種30本以上打つとされるが、そのスケジューリングは大変だといわれている。そこで「母子モ」が自動でスケジューリングを行い、保護者にお知らせすることに加え、予診票をデジタル化してアプリからの提出を可能にしている。

 母子モ株式会社の帆足和広取締役は「子育て期の手続きの中で、定期接種だけでも10種30本以上、任意の接種を含めると相当数になる小児予防接種の手続きのデジタル化により、接種漏れや接種間違いのリスク軽減と、保護者、医療機関、自治体の3者すべての利便性向上を目指した」と開発の背景を説明した。

予防接種管理画面とデジタル予診票画面。予診項目で重複する内容は一括で登録することができる

 

▽手続きの手間をゼロに

 子育てDX小児予防接種サービスの具体的な流れは次の通りだ。保護者がまず、母子手帳アプリ「母子モ」に子どもの生年月日と接種歴を記入し、そのデータを基に「母子モ」で自動スケジューリングされた日付にあわせ、医療機関を予約する。

 保護者はアプリで入力したデジタル予診票のデータを医療機関に送信し、提出する。データが届いた医療機関側は予診票データとシステムによる接種間隔のチェック結果などを確認した上で、予防接種を実施する。

 接種後は、接種記録を入力すると、保護者のアプリと自治体へ自動送信される。接種記録に基づいて自動で作成された請求書もオンラインで送信できる。

 一方、自治体側では、接種記録や請求書をデジタルデータで取得できるため、接種記録と請求書の突き合わせも自動で行えるという。

 帆足氏は、通常の小児予防接種の手続きについて「保護者、自治体、医療機関の3者に手間やリスクがある」と指摘した上で「このサービスを活用していただければ、手間やリスクの軽減に役立つだろう」と強調する。

 小児の予防接種は6本まで同時接種ができるが、「母子モ」を使わないで、紙での手続きの場合、接種1本につき予診票1枚記入が必要となり、住所や氏名、予診項目など同じ内容を複数枚に手書きしなくてはならず、保護者の負担になっているからだ。

 一方、医療機関側では、接種間違いや接種漏れのリスク対策で二重、三重のチェックをしており、業務の効率化が必要な状況だ。さらに、紙の場合は、予診票を1件ずつ集計し、自治体に請求処理が求められ、事務処理の負担も大きい。

 自治体側でも、医療機関から紙で送られてきた予診票や接種歴の確認、システム入力の業務の負担が生じている。接種実績の把握に3~6カ月かかるといわれており、接種遅れや見落としリスク、保護者への効率的な接種の提案が遅れてしまうといった状況に直面している。

 母子モ株式会社が、実際にこのサービスを利用した保護者にヒアリングをしたところ、「(予診票の記入などが)本当に楽になった」という声があった。医療機関からは「紙の予診票だと何枚もあるので見落としがあるが、(子育てDX小児予防接種サービスの活用で)見落としがなくなる」との評価があり、保護者、医療機関の双方で、手続き作業の軽減効果が実感されている。

 今後の取り組みについて帆足氏は「2030年までにあらゆる手続きの手間をゼロにし、デジタルデータを活用して支援が必要な保護者や子どもに対し、自治体、医療機関などからの適時適切な支援が受けられる橋渡しをしたい」と意気込みを語った。