デジタル技術を活用して地域の課題解決に成果を上げている地方自治体や民間企業・団体を表彰する「Digi田(デジでん)甲子園」。政府の「デジタル田園都市国家構想」実現に向けた取り組みの一環として2022年度からスタートした。23年度の募集が始まったのに合わせ、22年度「Digi田甲子園 2022夏」の優良事例を紹介する。
事例紹介の第4回は、「実装部門<指定都市・中核市などを除く市>」で優勝した山形県酒田市の離島・飛島(とびしま)を舞台にした「飛島スマートアイランドプロジェクト」。
▽高齢化率80%
山形県酒田市の北西約39キロの日本海上に位置する同県唯一の有人離島「飛島」。周囲約10キロの島全域が国定公園(鳥海国定公園)になっており、定期船で酒田港から約75分の島は、ウオーキングやバードウオッチングのほか、釣りや海水浴など観光客も訪れる。
一方、島民163人(2023年8月末現在)は平均年齢が70代半ば。65歳以上の高齢化率は80.4%(酒田市は37.3%)で、人口減少と高齢化の波が押し寄せている。スーパーやコンビニはなく、島民は日用品の買い物は本土の商店に注文し、定期船で到着した商品を港まで取りに行っていたという。
ただ、酒田市情報企画課デジタル変革戦略室の本間義紀室長によると「注文してから届くまで10日以上かかることもあり、冬は定期船の就航率が約30%になることもある」という。島民の中には、港まで取りに行けない高齢者もいるほか、観光客向けの商品販売もないといった課題を抱えていた。
▽島に光ケーブル整備
酒田市は、新型コロナの影響でデジタル変革の必要性を感じたことから、NTTデータ、NTT東日本、東北公益文科大学(酒田市)と2020年11月、連携協定を締結し、デジタル変革に取り組むことになった。酒田市で唯一、光ケーブルがなかった飛島にも高速通信網を整備した。
21年4月、港の近くに定期船事務所である建物を改装し、新たに日用品を販売する商店スペースを設置。ガソリン調達が難しいことから、小型電気自動車(EV)を採用し、オンラインで注文・配達するサービス「うみねこちゃん」を同年7月にスタートした。注文はスマートフォンのアプリではなく、LINE(ライン)を使用。欲しい商品を注文すると、配達員がEV車で自宅まで配達してくれる。
LINEを採用した理由について、本間さんは「観光客の利用を考えたときにスマホアプリのダウンロードより、LINEの『友だち登録』の方が、ハードルが低く、保守運用コストも低い」と話す。現在、約75人が「うみねこちゃん」に登録(観光客の「友だち登録」含む)。スマホを持たない高齢者などは電話でも注文を受け付けている。
▽「島ターン」で会社設立
商店「うみねこちゃん」を運営するのは、元島民らが設立した合同会社「とびしま」だ。店には、トイレットペーパーや食用油、カップラーメン、スナック菓子など生鮮食料品以外の日用品を中心に品ぞろえがあり、観光客向けに釣り具やレンタサイクルなども扱っている。
「うみねこちゃん」は商品販売だけでなく、島民宅の草刈りや、観光用などのドローン撮影といったサービスを拡充。現在黒字を確保できているというが、本間さんは「島民の買い物だけではサービスの維持が困難になる可能性があるので、観光客向けの消費拡大が重要だ」としている。
▽中山間地にも活用へ
また、通信インフラが整備されたことで、医師が常駐していない飛島で、本土の医師による高精細な映像を活用した遠隔診療も可能となるといったデジタルの効用も生まれた。
今後の展望については、飛島での経験を生かし、酒田市内の中山間地など買い物に不便な地域にも同様の仕組みを展開したいとしている。酒田市の「デジタル変革」は、離島から全市に広がりそうだ。