ブドウの産地として知られる山梨県。富士山や甲府盆地を望む丘にブドウ畑が広がる地にあるのが「サントリー登美の丘ワイナリー」(山梨県甲斐市)だ。総面積約150ヘクタール、栽培面積25ヘクタールのワイン用ブドウが収穫期を迎え、8月28日にワイナリー内で「収穫始め式」が行われた。サントリーはその様子とともに、栽培するブドウ畑を公開。日本ワインを世界に広げるための戦略について説明した。
▽凝縮感高めて糖度アップ
登美の丘ワイナリーは、創設115年。約50の区画でカベルネ・ソーヴィニヨンやプティ・ヴェルドなど赤ワイン用と、シャルドネ、リースリングといった白ワイン用ブドウを栽培する。その中でサントリーが日本ワインの世界戦略として強化しているのが、日本固有品種の白ワイン用ブドウ「甲州」だ。
甲州を強化する理由について、登美の丘ワイナリー栽培技師長の大山弘平さんは「日本固有の品種であり、日本の風土に合う」とした上で「品質が高く、オリジナリティーを出せる」と強調する。ワイナリーでは9区画で甲州を栽培するが、欧州系の品種に比べ糖度が上がりにくいという特徴があるといい「いかに凝縮感を高めるかが世界の白ワインと肩を並べる鍵だ」とする。
ブドウを凝縮して糖度を上げるために、登美の丘ワイナリーでは小さく育つ系統の甲州を選び、それでも大きくなる場合は粒を落とし、房の大きさを調整する育て方の工夫をしているという。
▽厳選した2区画で最上級ワインに
9区画ある甲州ブドウの畑で、特に南向き斜面で日当たりが良く、水はけもいいといった好条件の2区画で、完熟した甲州だけを選んで収穫。それをワインにしたのが、2024年にサントリーのラインアップ最上級シリーズ「フラッグシップワイン」として発売した「SUNTORY FROM FARM 登美 甲州 2022」だ。
同ワインは、世界最大級のワインコンペティション「デキャンター・ワールド・ワイン・アワード2024」で最高位の「Best in Show」を受賞。サントリーによると、今回出品された1万8143点のワインのうち、50点のみが同賞に選出されたといい「日本から出品されたワインでは初」としている。
▽温暖化対策が鍵
こうした日本ワイン造りで悩ませているのが近年の気候変動・温暖化だという。「収穫始め式」で、今年の作柄状況を説明した登美の丘ワイナリーの栽培担当者は「近年は温暖化で望むようにブドウが成熟してくれないことがある。特に今年は7、8月に高温の日が続き、スムーズに成熟期に進まなかった」と話した。
温暖化対策として、登美の丘ワイナリーでは「副梢(ふくしょう)栽培」に取り組んでいる。実がなる前の新梢の先端をあえてカットし、次に出てくる副梢の成長を促す技術で、夜との気温差が大きくなる秋に収穫を遅らせて、糖度や色、香りなどを適切にするという。(甲州は成長時期が遅いため副梢栽培は実施していない)
▽新品種の育成も
この日のテイスティング説明会で、各種ワインの特徴と味わいを解説してくれたサントリーワイン本部の柳原亮・シニアスペシャリストは「甲州は熟しても糖度が上がりにくい性質なので、アドバンテージがあるとも言える」と、温暖化にも対応できる特性があると話した。登美の丘ワイナリー所長の並木健さんは「暖かい環境でも対応できる品種の育成にも取り組んでいる」と明かした。
このほか、気候変動対策として、焼却処分などで廃棄された剪定(せんてい)枝を炭化させ、土壌に投入することで二酸化炭素(CO2)の排出を抑制する取り組みも行っている。
▽日本ワインを世界に
サントリーは、登美の丘ワイナリーで造る「登美」(赤・白)のほか、山梨県南アルプス市や長野県立科町のブドウを使用したワインなど、土地や地形、気候といった地域の特性を生かした、「テロワール」を重視した日本ワインのラインアップを展開する。
吉岡敬子・常務執行役員ワイン本部長は「海外での日本ワインの市場は、まだ小さい。和食との相性もいいので、インバウンド(訪日客)に味わってもらい、日本ワインを海外で伸ばしていきたい」と決意を語った。