社会

【この企業に聞く!】生理の悩みはどうしている? 会社全体で健康課題に取り組む「ミュゼプラチナム」

ミュゼプラチナム広報PR課の2人。
ミュゼプラチナム広報PR課の2人。

「生理痛は我慢するしかない」
「毎月ツライが、誰かに相談したことはない」
「誰もが悩んでいることだから、仕方がない」

 このように考えている女性は多いのでは? 経済産業省によると、月経に伴う体調不良による経済損失は年間で6,800億円以上にもなるという。月経痛やその関連症状は、女性自身にとってはQOL(生活の質)に関わる大きな問題だが、社会全体や企業にとっても労働力の低下という課題につながっている。一個人の体の問題だが、その影響は社会全体に及んでいるということだ。このような中、最近では会社全体の問題として、女性の健康課題に取り組んだり、女性社員の悩みに対応したりしている企業が出てきている。今回は、その中でも先進的な実践を行っているミュゼプラチナム(東京)を紹介する。

きっかけは一人の女性社員の声

 ミュゼプラチナムといえば、若い世代を中心に人気がある美容脱毛サロン。通ったことがあるという人もいるだろう。同社が月経にフォーカスした取り組みを始めたのは2018年。「生理に苦労してきた。そして肌荒れがひどい。ほかの人も悩んでいるはず」という一人の女性社員の声がきっかけだった。社員の9割が女性である同社では、女性が活躍しないと業務が回らない。そこで、まずは実態を把握しようと、社長室の男性社員が婦人科医に話を聞きに行った。すると、「女性の7~8割に生理痛がある」「痛みの裏には病気が潜んでいる可能性が」「女性でも症状は人それぞれ」――などの事実を知る。すべてが目から鱗だったという。

 従来は、個々人の健康上の悩みはあくまでも個人個人の問題、と捉える人や企業が多かっただろう。しかし、同社はそこからさらに踏み込んで、仕事への影響などより具体的な課題を浮き彫りにするための共同調査を、特定非営利活動法人「日本子宮内膜症啓発会議」(通称JECIE・ジェシー)と実施する。その結果、月経に伴う体調不良による欠勤の多さや、生理痛が仕事のパフォーマンスを低下させていることなどが分かった。

©日本子宮内膜症啓発会議
©日本子宮内膜症啓発会議

 日常業務にも大きな影響を与えていることが判明した月経にまつわる健康課題。女性同士でも全く痛みがない人など個人差があることから、同社は社内の講習会や研修を通して正しい知識を身に付けて、一人一人のリテラシーを上げることを目指している。サロンではスタッフ全員で顧客の対応にあたる。そこでは、高いチーム力やコミュニケーション能力が求められる。生理は毎月のことだから多少の痛みは仕方がないと放置したり我慢したりするのではなく、個々に合った適切な治療やアクションを起こすことでチーム全体のパフォーマンスも上がると考えている。実際、さまざまな研修を実施した結果、仕事への支障率は70.8%→58.5%まで下がり、12.8%あった欠勤率は5.3%にまで改善されたという(アンケートベース)。

©日本子宮内膜症啓発会議
©日本子宮内膜症啓発会議

 また、マネジメント層が月経の悩みや痛みに寄り添ったアドバイス・フォローができれば、業務がより円滑に回る効果が期待できる。社内で生理のことを話し合う場を設け、周囲に相談をしてもいいという雰囲気を作った結果、「より良いチーム作りや接客につながった」(広報担当)と成果を実感している。

スタートは“知る”ことから

 ここ数年、耳にする機会が増えた「PMS(月経前症候群・Premenstrual Syndrome)」という言葉も、ミュゼプラチナムが取り組みを始めた2018年ごろは、女性でもその概念を知る人は少なかった。PMSは、月経の3~10日前から続く身体的・精神的な不調のことで、その症状は多岐にわたる。頭痛、手足のむくみ、イライラ、気分の落ち込み…。生理前はいつも調子が悪いという人は、一度PMSを疑うといいだろう。しかし、PMSのこともその概念を知らないと医師や周囲に相談できない。同社の活動のゴールは、社員・スタッフたちが自発的に病院に行くようになることだという。

2019年に行われた研修の様子。
2019年に行われた研修の様子。

 社員の健康課題に取り組むことは、企業にとっても経営上のメリットがある。同社が欠勤などによる労働損失を金額ベースで計算したところ、なんと13億円以上であることが分かった。一人一人の生活の質やライフスタイルは、日々の仕事と切って離すことはできない。予防を含めて企業が社員の健康状態を守ることは、会社そして社会全体の労働力を守ることにもつながる。フェムテックなどのブームもあり、社員の健康問題に積極的に関与していく企業はますます増えていくであろう。