ジェンダー

“空気を読む”ことを求められる日本 職場のジェンダーギャップの解消のカギは?

「職場のジェンダーギャップの解消を考える有識者会議」の登壇者たち
「職場のジェンダーギャップの解消を考える有識者会議」の登壇者たち

 スイスのシンクタンク、世界経済フォーラムが毎年公表している各国の男女平等の度合いを数値化した「ジェンダー・ギャップ指数」。世界146カ国中、116位。これが昨年の日本の順位で、主要先進国で最下位だという。

 求人情報検索サイトIndeed Japan(東京)はこのほど、性別による偏見や障壁=ジェンダーギャップを無くすため、職場などのジェンダーギャップのリアルな実態を調べ、その解決を目指す「ハロー、ニュールール!」キャンペーンを開始した。「世界では、人々が置かれた立場によって仕事を得る機会が公平に分配されておらず、国内でも雇用に関するさまざまなバリアー(障壁)が存在する」と同社。さまざまなバリアーの中で「ジェンダー」に注目した今回のキャンペーン第一弾は、「#これでいいのか大調査」。昨年秋、「バカボンのパパ」の口癖「これでいいのだ」ならぬ「これでいいのか?」という問いかけを掲げ、労働上のジェンダーに関する違和感の声を、SNS・応募フォーム・電話で募ったところ、1427件の反応があった(Twitter投稿62件、投稿フォーム613件、各種SNS上でのコメントを含む)。

 寄せられたさまざまな声を受け、1月17日に東京都内のIndeed Japan本社で、「職場のジェンダーギャップの解消を考える有識者会議」が開催された。登壇者は、男女平等分野の専門家・治部(じぶ)れんげ氏(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授)、世間学・現代評論などの専門家・佐藤直樹氏(九州工業大学名誉教授)、IT分野のジェンダーギャップ解消に取り組む田中沙弥果氏(一般社団法人Waffle代表)、Indeed Japan代表取締役・ゼネラルマネジャーの大八木紘之氏。

東京都内のIndeed Japanで開催された「職場のジェンダーギャップの解消を考える有識者会議」
東京都内のIndeed Japanで開催された「職場のジェンダーギャップの解消を考える有識者会議」

 冒頭、治部氏は「日本のジェンダーギャップ指数が先進国の中でほぼビリの状態が続いていることは、海外からもとても不思議がられている。法律や制度の問題よりも、労働環境の中にさまざまな“モヤモヤ”がたくさんあるのでは。それらを明らかにしていくことが大事ではないか」と話した。

治部れんげ氏
治部れんげ氏

 Indeed Japanによる「ジェンダーギャップに関する意識調査(2022)」(2022年9月22日~24日に男女5000人を対象に実施)では、職場で「ジェンダーギャップを感じたことがある人」は、約7割(66.9%)に上り、働く人の約2人に1人(47.4%)が、今の職場でジェンダーギャップを感じる慣習や暗黙のルールに対し「違和感がある」と回答。その一方で指摘や相談などの行動を起こさない人は約6割(58.9%)で、行動をしない理由の1位は「どうせ変えられないから」だったという。

 「どうせ変えられないから」という声について佐藤氏は、「日本社会では、あらゆる社会問題の根底に『世間』(の目)の存在がある。“社会のルール”は建前で、“世間のルール”が本音。会社の中でもこの二重構造がある。『空気を読め』という同調圧力によって心理的安全性が保たれず、さまざまな問題を目の当たりにしてもう解決を目指す行動に出られない」と解説した。

 また、佐藤氏は、組織の中の「世間」にはたくさんの「謎ルール」があると指摘。自分の仕事が終わっていても上司や先輩より早く帰れない暗黙のルールのようなものは、コロナ禍で増えたリモート会議においても、退出は上司から順番にといったように形を変えて新たな「謎ルール」が生まれている、と例を挙げた。佐藤氏は、性別による仕事の押し付けなどに関しても、「同調圧力につながる謎ルールを『謎ルール認定』をして、1つ1つつぶしていくような仕組み作りも必要ではないか」と提言。治部氏は、「SNSの『謎ルールスタンプ』ができたら、関心も高まるかも」と応じた。

佐藤直樹氏
佐藤直樹氏

 職場のジェンダーギャップ解消に向けた解決策として、田中氏は、長時間労働を管理職登用条件にするなどの女性への間接的差別の撤廃、日本で長く中心となってきた新卒一括型のメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行などを提言。「一時的に離職したりブランクがあったりする人へ雇用機会の道を開くことが重要」と訴えた。大八木氏は、「Job Description」とし、「ルールや目標を提示するなど、仕事のことをきちんと表現する必要性」を提案した。

田中沙弥果氏
田中沙弥果氏

 育休・産休に対する課題について、「#これでいいのか大調査」では、「育休から復帰したら役職を外された」「育休の後、時短勤務するならパートになってくれと言われた」「正社員が育休を取得すると契約社員にさせられる」などの声が寄せられた。また、男性の育休取得について、「会社が大変なのに、と迷惑をかけているように言われる」「上司に、男にできることは何もないぞと言われた」「上司から、遊んでいるなら仕事に出てくれと言われた」などの声があった。これに対し、佐藤氏は、「極端にいえば、制度で強制的に取らせる形にまでしないと、同調圧力の中で男性はなかなか育休が取りづらい」と指摘した。

 大八木氏は「現在Indeed Japanでは、十数名の社員が産・育休を取っている。『休んでいる間が不安』との声もあるので、産・育休に伴う不安を気軽に相談できる窓口や、仕事上の情報を取りたい時に会社に取りに行ける体制作りなども考えたい」と話した。また、大八木氏は「日本はダイバーシティーについて自然に気付ける機会が足りない。周りの産・育休についての話を聞いた時に、自分がどんな感情を持ち、どうしようと考えるか。そんな“心の声”に気付くことから始められたら」と話した。

大八木紘之氏
大八木紘之氏

 最後に、佐藤氏は、「空気を読んでも従わない小さな勇気を持とう」と訴えた。治部氏は、「そのような小さな勇気を持った人々を支えていくのが行政の役割だと思う」とし、「法的に認められている産・育休を取ることができない社名の公表」も必要と指摘。ジェンダーギャップにおいて「フェアな企業に転職する人が増え、雇用の状況が流動化することで、取り組みに欠ける会社からいい人が抜け、雇用市場の活性化にもつながるのではないか」と話した。

 今回は、「これでいいのか?」をテーマにしたキャンペーンで職場のジェンダーギャップに対して寄せられた声が議論の対象になった。治部氏は「(ジェンダーギャップ解消に向けた)法制度はあるけれど実践しにくい点にフォーカスした点が新鮮だったと思う」とし、田中氏は、「さまざまな課題の中で解消に向けて取り組んでいる良い事例も集めて広く伝えていけると、今後取り組みやすくなる現場もあるのでは」と話した。主催のIndeed Japan・大八木氏は、「SNSなどで集まった世間の1500弱の声は、誰にも届いていなかった。このような声を社会が吸い上げ、現状を変えていく必要性を感じた。今後、良い取り組みや成果を出している取り組みも集め発信していきたい」と話した。