イギリスの展覧会で見た尾形光琳の硯箱(すずりばこ)に魅せられ漆を学びたいと、22歳の時に来日したスザーン・ロスさん。10年かけて複雑な輪島塗の行程をすべて一人でこなせる技術を身に付け、漆芸作家として独自の世界を表現してきた。一方で、縄文時代から続いている日本の伝統工芸が、いま日本から消えかかっていることに危機感を抱き、日本人のみならず海外にも日本の伝統工芸の素晴らしさを伝え続けている。スザーンさんが漆に携わって34年。輪島の古民家を自分たちの手で美しく改装し、大切に暮らしてきた家と、そこに隣接する工房、作品や道具は、元日に突然襲われた能登半島地震によって、たった60秒に満たない間に壊れてしまった。
スザーンさんは、震災で全てを失ってもなお作品を作りたい、まだまだ漆を学びたいと、新たな拠点を探し、材料や漆を手に入れて、再び作品を創造する生活を取り戻すために、個展を開くことになった。2月15日(木)~18日(日)10時~16時に長野県東御市の「ギャラリー胡桃倶楽部」(長野県東御市田中181)で、3月6日(水)~17日(日)11時~18時に大阪市の「カフェと雑貨g-fortune」(大阪市東住吉区東田辺1-11-12)で開催する。個展では、残った作品の販売もする。
著書『漆に魅せられて』(桜の花出版・東京)の中で、「私は漆に、日本人の美意識や、自然を敬って自然と共に生きて来た日本人のこころを感じるのです」と語っているスザーンさん。今回の個展開催について、「この作品展は、皆さまのご協力のもと、私自身がゼロから再出発する試みです」としている。