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映画でアイヌ文化を後世に ふるさと納税で支援、北海道東川町

撮影の合間に取材に応じた(右から)菅原浩志監督、吉田美月喜さん、望月歩さんの3人
撮影の合間に取材に応じた(右から)菅原浩志監督、吉田美月喜さん、望月歩さんの3人

 写真甲子園(全国高等学校写真選手権大会)の開催地で知られる北海道中央部に位置する東川町。同町がふるさと納税を通じて製作を支援する映画「カムイのうた」(菅原浩志監督)の撮影が進んでいる。アイヌ民族で語り継がれているカムイユカラ(神謡)を初めて日本語に翻訳した知里幸恵(1903~22年)がモデル。主役のテル(吉田美月喜)がアイヌ語を研究する言語学者と出会い、文字を持たないアイヌ民族にとって、神謡を書き残すことの大切さに気付く姿を描く。道内各地でロケを続け、来年秋の完成を予定している。

知里幸恵の生涯描く

 知里幸恵は、言語学者の金田一京助の勧めで神謡の文字化に取り組んだが、著作「アイヌ神謡集」が出版される前年に心臓病のため19歳で亡くなった。アイヌと、本州から渡来した“和人”の共生は、明治以降、日本社会の底部に潜む差別問題だった。生活と土地を奪われ、アイヌは消滅の危機に立たされてきた。重いテーマだけに、映画でどう描くかは難しいところ。

 7月中旬、アイヌ語で「カムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)」と言われる北海道最高峰の旭岳を望む美瑛町忠別湖の撮影現場で、スタッフが取材に応じた。800人の中からオーディションで選ばれた主演の吉田さんは19歳。「出演が決まってから、監督とたくさん話をしてアイヌ文化を学んできた。一つ一つのものに神が宿っていて、ものを大切にするという精神が私には刺さった。それを伝えていけたら」と抱負を話した。テルの恋人役を演じる望月歩さん(21)も、アイヌ差別に関する知識はなかったという。「今は学校で学ぶ機会も少ないと思う。エンターテインメントに富んだ映画ではないかもしれないが、差別は実在したということを伝えられたら」と話す。

旭岳の麓にある山あいの忠別湖で撮影は進められた
旭岳の麓にある山あいの忠別湖で撮影は進められた

監督「中身の濃い作品に」

 5年前に写真甲子園をテーマにした「写真甲子園 0.5秒の夏」を製作している菅原監督は、札幌市出身の67歳。「昔、何があっただけでなく、今の人に差別に気付いてもらいたい。この映画が、そのきっかけになれば」と力説し、同時に「登場人物の心の揺れとかをダイナミックに描くことができれば、人々を感動させ、中身の濃いエンターテインメント性の高い作品になる」と、映画としての面白さにも自信をのぞかせた。

 アイヌ文化の振興に力を入れる東川町では、後世に文化を残すために映画の製作を企画。その資金としてふるさと納税を活用している。募集は個人、企業に分かれ、納税額に応じて、エンドロールや特設HPに名前が掲載されるほか、無料上映権やDVDのプレゼントが用意されている。 詳細は映画のウェブサイトに掲載。問い合わせは東川町東川スタイル課、電話0166(82)2111。