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グローバルなベンチマークに 横浜DeNAベイスターズ×ハイセンス トップ対談(下)

キャンプを見学する横浜DeNAベイスターズ・木村洋太社長(左)とハイセンスジャパンの張喜峰社長

 ―現在は横浜DeNAベイスターズもハイセンスも一定の成功を収めていますが、ここまで来るまでにどんな苦労がありましたか。

 木村 私はベイスターズには現場から入っています。性格的に細かいところがあるので、どうしても部下にも細部までインプットしてしまいがちでした。自分が担当する領域が広がってくると、それが難しくなって悩むこともあったのですが、ある時、このやり方では組織は自分の器以上に大きくならないなということに気付きました。どうしてもマイクロマネジメントになってしまうという自分の悪い癖から脱却するのに苦労しました。と言うか、今も苦労しています。より大きな組織をみられるようになりたいと願っています。

 張 私の場合は、タイ、オーストラリア、そして日本と、言葉はもちろん文化から市場の在り方、仕事の作法、消費者のニーズといったすべてが異なる環境で仕事をすることに苦労してきました。特にタイは私が赴任して現地法人を立ち上げました。会社の設立、運営、市場調査、製品開発から販売まですべて一人で責任を持たないといけません。当時は「早く結果を」という気持ちから、自分に過大な重圧をかけていました。つらい時期ではあったのですが、振り返ると個人として大きく成長できた時期でもあり、私の財産になっています。現在、ハイセンスタイランドはテレビの同国内シェアでトップ3に入るなど順調です。

ベイスターズの木村社長

 ―難局を乗り越える転換点があったのでしょうか。

 木村 現場と経営陣の考え方がすれ違っていたある時期のことですが、会議で私が「もっと組織として進化していこう」という趣旨のことを言ったのに対して、「木村さんのやり方がそうなっていない」と直言してくれた部下がいました。その時、経営者は大きな理念や方針を示し、あとは現場に任せる形にしないとダメだと痛感しました。現在の“Be Crazy”もそうです。「これまでの習慣や世間の常識なんか気にせず面白い組織になろうぜ」と。「その旗は立てるから、あとは任せる」と。本当に“Crazy”かどうかは、やってみて判断すればいいのです。実際、こういうやり方でないと、物事のスピードも現場のモチベーションも上がりません。

 張 よく分かります。ハイセンスは青島(チンタオ)の総本部の経営陣は中国マインドです。そこからの要求をいかに各国・地域の状況にアジャストしていくかが課題です。現地の文化や仕事のやり方といったものを受け入れた上で、会社の発展の方向と目標を定めないといけません。ビジネスは一歩一歩、取り組まないといけないものです。まずは落ち着き、現地のチームと一緒に考え、同じ方向を向いて行動できれば、成功に近づきます。最初は見込みゼロと思われていても、発展の可能性が見えてくると自然と人は集まってくるものです。

 ―2025年はお二人にとって新たな挑戦の年となります。今後の目標をお聞かせください。

 張 日本の家電市場は世界で最も成熟しており、技術力の高いライバル企業もあります。そういう意味で、日本はグローバルの指標となるベンチマーク市場と捉えています。これまでの私の経験の中でも最もハイレベルな競争を覚悟していますが、それは発展の可能性が大きいということでもあると思っています。

 私は中国の「天道酬勤」という言葉を座右の銘にしています。努力は必ず報われるという意味です。事に臨んで、目標を立て、最大限の努力を尽くせば、必ず成功する。日本市場での戦いに向け、自分自身への要求水準を上げ、それを突破していきたいと思っています。ハイセンスは全世界でのテレビ出荷台数が3年連続2位です。「3年以内に世界一」というグローバル目標を達成する自信が私にはあります。

ハイセンスジャパンの張社長

 木村 私は社長になってから「人事を尽くして天命を待つ」ということを意識しています。これには2段階の解像度があり、まずは木村洋太個人として「人事」を尽くしているか、目標をしっかり伝え部下や組織が動く形になっているかということです。もう一つの段階は、球団や会社としてやるべきことをやっているかです。そこができていれば、あとはマーケットやペナントレースで「天命」を待つという心持ちでいられます。

 昨年、ベイスターズはセ・リーグ3位からクライマックスシリーズを勝ち上がり日本一になりました。今季は「リーグ制覇と連続日本一」が目標です。ある意味当然の目標なのですが、大切なのはなぜそうなりたいかということです。それはベイスターズが長期的に魅力のある存在になってほしいからで、それがファンや横浜の人々への恩返しでもあるからです。私は、ゆくゆくは横浜DeNAベイスターズを世界的認知のあるチームにしたいと思っています。米大リーグや欧州サッカーのいくつかのチームのように、張社長の言葉を借りれば、世界のスポーツチームのベンチマークの一つにしたいということです。 そのためにも、常識を打破して“Crazy”に走り続けることが重要なのです。

 張 ぜひ、一緒に世界の頂点を目指しましょう。

キャンプ地の土産物店での張社長

木村洋太 1982年横浜市生まれ。東大~東大大学院修了。2007年外資系コンサルティング会社入社。12年3月横浜DeNAベイスターズに転職、事業本部長、副社長などを歴任し、21年4月社長。

張喜峰 1983年中国山西省生まれ。中南財経政法大卒業。2006年ハイセンス入社。15年9月ハイセンスタイランド社長、19年2月ハイセンスオーストラリア社長、24年12月ハイセンスジャパン社長。22年11月からアジア太平洋地域統括責任者を兼務。