『水は海に向かって流れる』(6月9日公開)
高校通学のため、叔父の家に居候をすることになった直達(大西利空)。だが雨の中、駅に迎えにきた榊さん(広瀬すず)に案内されたシェアハウスには、26歳でOLの榊さん、脱サラをした漫画家の叔父・茂道(高良健吾)のほか、女装の占い師・颯(戸塚純貴)、海外を放浪する大学教授の成瀬(生瀬勝久)が住んでいた。
さらには、拾った猫のムーを気にしてシェアハウスを訪れるようになった直達の同級生で颯の妹の楓(當真あみ)も加わり、予想外の共同生活が始まる。
いつも不機嫌だが、気まぐれにおいしいご飯を振る舞ってくれる榊さんに淡い恋心を抱き始める直達だったが、なぜか「恋愛はしない」と宣言する彼女との間には、思いも寄らぬ因縁があった。
田島列島の同名コミックを前田哲監督、大島里美の脚本で実写映画化。メークの力も借りて、不機嫌でツンデレな“年上の人”を演じた広瀬が、大人の女優としての新たな一歩を踏み出した感じがしたし、大西が演じた真っすぐな若者像にも好感が持てた。そんな彼らを取り巻く“くせ者たち”も面白い。
最近、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(18)『老後の資金がありません!』(21)『そして、バトンは渡された』(21)『ロストケア』(23)と、群像劇として、さまざまな形の家族(共同体)の問題を映画化している前田監督の力量が、この映画でも遺憾なく発揮されている。
前田監督は、原作ついて、「引いて見ると非常に厳しくて残酷で、辛辣(しんらつ)な話。それを独特のユーモアで語っている。田島さんには独特のユーモアや間があるところが面白い。あとはやっぱりキャラクター。僕は、映画は人間を描くことだと思っているので、田島さんが描く人間が面白い。面白いけれど人に対するまなざしが優しい。そこがすてきだと思う」と語る。
また、本作について前田監督は「人生は不条理でとても残酷。だからこそ、しんどいよね、つらいよね、頑張っているよねというよりは、からっと明るく、下を向きそうなときこそ前を向きましょうよ。ちょっとだけ目線を上げてみませんかという映画を作りたいと思っている。今回は、若者の背中に手を添えて、『大丈夫だよ』と優しいエールを送るような映画」と語っていたが、確かに、そういう映画になっていると感じた。