世界経済フォーラムが公表する男女平等度の指標「ジェンダー・ギャップ指数」で、日本は世界最低レベルに低迷。政府は「女性版骨太の方針」を決定し、東証プライム市場に上場する企業に女性役員比率の数値目標を明記するなど、欧米諸国に比べ遅れている女性登用を促す。一方で、早くからジェンダー平等、女性活躍推進の活動を進めている民間企業も多い。今後の取り組みの参考となる事例を紹介する。
第1弾は、経営トップ直轄の女性活躍推進プロジェクトを2011年に発足させた、総合空調メーカーの「ダイキン工業」(大阪)。経済産業省が女性活躍推進に優れた上場企業を選定する「なでしこ銘柄」に7年連続で選ばれた実績があるほか、2001年にはわずか2人だった女性管理職が現在、106人にまで増加している。もともと女性社員比率が低く男社会の色合いが濃かった機械製造業の同社で、女性の活躍推進をどのように進めてきたのかを人事本部ダイバーシティ推進グループに聞いた。
―「ダイバーシティ推進グループ」を中心に10年以上、女性活躍推進に取り組んでいる。ダイキン工業(以下、ダイキン)ならではの施策は?
ダイキン 当社の独自性は、両立支援策の考え方にあると思っています。「子育ての支援をするのではなく、子育てをしながらキャリアアップできる支援をしていく」という方針を貫いてきました。他社が両立のしやすさを目指して、育児休暇や短時間勤務を長く取得できるよう相次いで制度改訂した時期がありましたが、当社は、育休は法定通り、短時間勤務も小1の年度末までにとどめています。長期の育休や短時間勤務は、本人のキャリアにとって必ずしもプラスに働かない、本人が意識しないうちにマミートラックに乗ってしまうリスクがあると考えたからです。できるだけ早く育休から復帰し、できるだけ早く短時間勤務からフルタイムに戻れるように環境整備をしてきました。
復帰したいのに保育所に入れないという課題に対しては、一人一人丁寧に保活をサポートする「保活コンシェルジュサービス」を導入(2013年度)するとともに、早期に復帰できるための支援に大きくかじを切りました。例えば、生後6カ月未満で職場復帰する人に対しては、ソフトランディングできるよう、1日4時間勤務(復帰後1カ月まで)や短時間フレックス勤務(1歳まで)を可能にし、「育児支援カフェテリアプラン」という育児サービス費用の会社補助も、通常は一人当たり年間20万円までのところ3倍の60万円までに増額するなどしています。2022年度は育休を取得した78人中12人(15%)が6カ月未満で復帰しました。
ただ、決して早い復帰を強いているわけではありません。1~2年で復帰できる環境は十分に整っており、出産・育児で辞める人はいない状況で、早く復帰したいという声が上がってきたため、早期復帰支援の足し算の支援を行ったということです。
―6カ月未満での復帰はハードルが高いと思うが、どのような理由で早期復帰を選んでいるのか?
ダイキン 「できるだけキャリアブランクを短くしたい」「早く職場に戻って担当の仕事をやりたい」という声をよく聞きます。復帰のタイミングとしては、4月の保育園入所に合わせて半年未満で復帰する人が多いです。最近では、パートナーと交互に半年ずつ育休を取るというケースも出てきました。2人で子育てを担い、お互いのキャリアを大事にしながら働き続けられる風土を醸成したいと思っています。
―これまでの取り組みの成果は?
ダイキン 効果として一番分かりやすいのは女性管理職の増加です。2011年にこの取り組みを始めた時は、女性管理職(課長以上)はわずか20人だったのが、現在は106人。この10年で5倍になりました。そのうち30人強がここ1年半での登用です。これまでさまざまな取り組みをやり続けてきて、管理職候補者が着実に育ってきたからこそだと思います。大事なのはやり続けること、継続だと思っています。
―施策の一つである「女性リーダー育成研修」ではどのようなことを?
ダイキン 研修の目的は、ダイキングループの中で管理職を目指すんだという覚悟の醸成とそのためのスキルを身に付けてもらうこと。研修期間は約8カ月間で、集合研修を4回開催。1期あたりの受講生は部門から選抜された20人です。内容は、ファシリ―テーションや論理思考などのスキル研修や、社内外のリーダーにインタビューして自分たちが目指したいリーダー像を描くグループワーク、研修で学んだことを職場で実践して自分を鍛える個人ワークなどを組み合わせています。
中堅(30代後半から40代)と若手(20代半ばから30代)の2つの層で行っていますが、特に中堅の研修では、研修期間中に管理職に昇進する人もいて、他のメンバーが刺激を受け、管理職へのチャレンジにポジティブに変化していくのがよくわかります。
研修に参加している女性は、最初から管理職になりたいと思っている人ばかりではありません。女性は男性に比べて、自分に自信がない、自己肯定感が低い人が多いと感じますが、研修を受けて、「期待されているんだから頑張ろう」とマインドが変わっていきます。
―男性の育児休暇取得率など、男性側の変化は?
ダイキン 2022年度の男性の育休取得率は79.3%です。2021年度は12.6日だった平均取得日数が、2022年度は25.2日まで延びました。男性の育休取得推進のために、子どもが生まれた男性とその上司に「仕事と育児両立ハンドブック」を案内し、「いつ育休を取得しますか?」と働きかけ、取得するまで3カ月ごとにフォローし続けています。「男性も育休を取るのが普通なんだ」という意識が広がってきているのを感じています。
―男性の育休取得は会社にどのような影響を与えているか。
ダイキン まだまだ取得日数が少ないので影響は大きくないですが、これからますます長く取得する男性が増えるでしょうし、育休から復帰後も育児に参画する男性が増えると思います。長期のブランクや時間の制約があるのは女性だけではなくなる。組織として、誰かが抜けても業務が回るような体制を整えたり、働き方改革や仕事の仕方の見直しをしたり、さらに進んでいくと思います。
―男性の育児・家事参画を推進する施策は?
ダイキン 施策の一つに「仕事と育児両立セミナー」があります。2カ月以上の育休から復帰した社員とそのパートナー(社内結婚)、それぞれの上司の最大4者が集まるセミナーです。ダイキンでは、「女性が家事・育児の責任を主に担い、男性が協力する」というスタンスではなく、男女ともに家庭責任を担いつつキャリアアップしていってほしいし、その前提で上司も仕事のマネジメントをしてほしいと伝えています。まだまだ女性に家事・育児の負担が大きいのは事実ですが、男性側の意識も徐々に変わってきているのを実感しています。
―男女それぞれの意識改革に有効だった取り組みは?
ダイキン どれか一つが有効だったというのではなく、とにかく考えられるあらゆる施策を実行し続けてきたことが成果につながりつつあると思っています。部下の意識だけを変えても意味がなく、上司の意識も変えていかないといけない。上司と部下の意識改革を同時並行で進めてきたことは効果があったと思います。
―その上司に求めていることは?
ダイキン アンコンシャスバイアスを払しょくして、女性社員の成長につながる(ストレッチな)仕事・テーマを与えてほしいと一生懸命伝えています。上司の中には、「子育てがあるから、ハードな仕事を渡すのは忍びない」とか「結婚適齢期だから海外出向は避けたほうがいい」とか、本人の意向を聞かずに「よかれの配慮」をしているケースが見られます。それは「優しさの勘違い」であり、女性の成長を阻害しているといえます。また、女性は自ら管理職になりたいと手を挙げる人が少ないのも事実で、男性以上に背中を押してほしいと伝えています。
―最後に、ダイキンが女性活躍に力を入れ続ける理由は?
ダイキン 一言でいうと、イノベーションを起こすためです。「同質のチームよりも異質なメンバーから成るチームの方がイノベーションが生まれやすい」とトップはいつも言っています。この変化の激しい時代に、イノベーションを起こして変わり続けなければ、会社は生き残れない。まだまだ道半ばですが、女性社員の母数をもっと増やし、役員の女性比率も上げて、ダイバーシティ&インクルージョンで変革につなげていきたいと思います。