「好き」「嫌い」「好き」「嫌い」とつぶやきながら、花びらを1枚ずつつまんだことはありますか? 「昭和のドラマじゃあるまいし」と失笑されそうですね。では、「どちらにしようかな、天の神様の言うとおり・・・」と言って選択する、これなら経験があるでしょう。
誰しも「あのときの決断で今の人生がある」というような出来事があったのではないでしょうか。進学、就職、結婚、転居など人生にはさまざまな岐路がありますよね。どちらにするかどうしても決められないときは、山形県最上町にある分水嶺に木の葉を浮かべ、流れる方向に自らの道をゆだねるのも一興かもしれません。
雨や雪の水分が地上で流れるときに、異なる方向に流れる場所を「分水界」と呼びます。簡単にいえば、山頂に降った水は異なる方向に流れますよね。この分水界となっている山頂と山頂をつなぐ峰筋を「分水嶺」といいます。では、山形県の最上町をエスコートします。
山形県の新庄から宮城県の小牛田を結ぶJR陸羽東線は、松尾芭蕉が歩いた舞台であり、沿線にはいくつもの名湯があることから、「奥の細道湯けむりライン」という愛称が付けられています。県境となる山形県最上町の堺田駅前には奥羽山脈の分水嶺があり、全国的にも珍しい、平坦な場所で東西の海へと流れる小さな川の分岐点が見られるところです。
無人の堺田駅の階段を上ると右手に分水嶺があります。小川が左右に分かれていて、東は116㎞で太平洋、西は102㎞で日本海へ注ぐのです。川が分岐する手前には、小さな鳥居が5基かけられています。ちょっとした休憩スペースもあり、ベンチの下では猫が気持ちよさそうに昼寝をしていました。
さあ、自分の選択肢を太平洋と日本海に分けて、鳥居の手前からささの葉を流してみましょう。自らの悩み事の答えをささ舟が教えてくれるかもしれません。私が作ったささ舟は・・・、「お~、太平洋だ」と声を出しましたが、そもそも選択肢を考えていませんでした。
悩みごとが解決したらお腹が減りませんか。山形県には芋煮など名物がたくさんありますが、私がオススメしたいのは山形の麺文化。なかでも「鳥中華」は、日本そばのつゆに、中華麺が入り、鶏肉がトッピングされている「そば屋から生まれたラーメン」です。堺田駅から新庄行きの陸羽東線に乗り、最上駅で降りました。駅の近くには自家製麺が人気で、昭和8年創業の老舗「麺処 西郷屋」があります。日本そば、うどん、中華そば、そして鳥中華も扱う、まさに山形の麺処です。
もちろんオーダーするのは名物の鳥中華・・・、と思っていましたが、衝撃的なメニューを見つけました。「馬肉チャーシュー麵」です。そういえば、山形県は古くから馬の産地としても有名でした。馬肉チャーシュー麺のスープは、透き通るようなスッキリとしたしょうゆ味。麺は中太か細麺を選択できます。初体験の馬肉チャーシューは、ショウガが利いていて臭みもなく、ホロホロのやわらかさ。想像よりはるかに上品な味です。4代目店主の佐藤雅哉さんによると、馬刺しとして出せる肉をチャーシューにしているという。なんともぜいたくな逸品です。
最上の旅を計画する上で、鳥中華にするか馬肉チャーシュー麵にするか、今から悩んでいるという方は、食事の前に分水嶺で答えを見つけてくださいね。
【旅人略歴】
エスコートK・・・数十年前、旅程管理主任者の1期生として、国内外のツアーをエスコート。現在は生活情報誌の編集長だが、旅の取材だけは自らのカメラを手に、こっそりとデスクを離れ出掛けている。