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大名行列ビュー(妄想)の木曽路旅【あなたをエスコート 幸せになる旅コラム#4】

奈良井宿の名宿「伊勢屋」。
奈良井宿の名宿「伊勢屋」。

 宿泊施設を決めるとき、部屋からの景観も判断材料にするという方は多いと思います。海が見える「オーシャンビュー」とか、夜景が美しい「シティービュー」など、宿泊施設側もその魅力をアピールしていますよね。今回エスコートさせていただくのは「大名行列ビュー(妄想)」の名宿に泊まる木曽路の旅です。

 江戸と京を結ぶ東海道と中山道。江戸へ向かう大名行列は甲州街道、日光街道、奥州街道を加えた五街道が使われたそうです。コロナ禍が続くいま、静かな宿場町にある名宿でのんびり過ごそうと思い、中山道の真ん中の宿場町、木曽路の奈良井宿へ向かいました。

 松本で用事を済ませた私はJR篠ノ井線に乗り、塩尻から中央本線に乗り換え奈良井で下車しました。松本からすべて各駅に止まり、ちょうど10駅目が奈良井。明治42年に開業した奈良井駅の駅舎は近代化遺産としての価値が高いそうです。

JR東海で最も高地にある駅「奈良井」。
JR東海で最も高地にある駅「奈良井」。

 改札を出て左に歩くとすぐに、重要伝統的建造物群保存地区となる昔ながらの宿場町が始まります。電柱もない江戸時代の建築様式をとどめた町並みを歩いていると、令和の世を忘れてしまいそうです。奈良井宿には旅人の喉をうるおす水場がそこかしこにあります。生ぬるくなったペットボトルのお茶をしまい、冷えた水をいただくと生き返ります。

重要伝統的建造物群保存地区の奈良井宿。
重要伝統的建造物群保存地区の奈良井宿。

 水といえば、奈良井宿には、中央本線、国道19号、そして奈良井川が並行しています。清流には、樹齢300年以上の木曽ひのきで造られ、橋脚のない橋としては国内有数の大きさを誇る「木曽の大橋」が架かります。

奈良井川の清流に架かる「木曽の大橋」。
奈良井川の清流に架かる「木曽の大橋」。

 木曽の大橋から清流を眺め「この美しい水でゆでたそばは、さぞやおいしいだろう」と思っていたら、奈良井宿には多くのそば屋がありました。私が選んだお店は、地粉ひきたて本手打ち九割そばを楽しめる「そば処 相模屋」で、ざるそばに煮物と漬物、そして五平餅がついた「五平餅定食」を注文。喉ごしの良い九割そばはもちろん、クルミとゴマの2種の五平餅は優しい味で心に染み入ります。

本格的な手打ちそばを出す「相模屋」。
本格的な手打ちそばを出す「相模屋」。

 腹が満たされ上機嫌になる自分を、まるで水戸黄門に登場するお調子者の八兵衛のようだなと思いながら、今回の旅の目的地である文政元年創業という老舗の名宿「御宿 伊勢屋」へ向かいます。

伊勢屋の部屋から眺める中山道。
伊勢屋の部屋から眺める中山道。

 伊勢屋は2階が少しせり出した出梁(だしばり)造りで、奈良井宿の代表的な建築様式の旅館です。玄関をくぐり館内を見上げると、建築当時の梁が残っていて、暖かくも重厚な雰囲気を感じます。伊勢屋には貸し切り風呂が二カ所あります。さすがに浴室は江戸時代のものではなく、清潔かつ美しくリフォームされていました。母屋と離れの間に中庭があり、どちらの浴室からも大きな窓から中庭を眺めることができます。

 私が泊まる母屋2階の部屋は、格子戸の窓から中山道が見えます。参勤交代の大名行列を見るには、最高のロケーションだったと思います。大名を上から眺めることは無礼なので、きっと障子を少しだけ開けて、こっそりと見物した旅人もいたことでしょう。

 木曽路の名宿で心静かに過ごしながら、頭の中では江戸時代のにぎわいを妄想していたら、なんだかちょっと幸せな気持ちになりました。

【旅人略歴】
 エスコートK・・・数十年前、旅程管理主任者の1期生として、国内外のツアーをエスコート。現在は生活情報誌の編集長だが、旅の取材だけは自らのカメラを手に、こっそりとデスクを離れ出掛けている。