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監督はつらいよ『アムステルダム』『チケット・トゥ・パラダイス』【映画コラム】

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『チケット・トゥ・パラダイス』(11月3日公開)

(C)2022 Universal Studios. All Rights Reserved.

 デビッド(ジョージ・クルーニー)とジョージア(ジュリア・ロバーツ)は、20年前に離婚して以来、必要に迫られて会うことはあっても、いがみ合ってばかりいた。そんな2人の愛娘リリー(ケイトリン・デバー)がロースクールを卒業し、親友(ビリー・ロード)と一緒にバリ島を訪れるが、数日後、両親に「現地の男(マキシム・ブティエ)と結婚する」という連絡が入る。

 弁護士になる夢を捨て、会ったばかりの男と結婚するなどとんでもないと、デビッドとジョージアは、現地へ赴き、娘の結婚を阻止するために、不承不承、共同戦線を張ることになるが…。

 最近は珍しくなった、いわゆる“ラブコメ”で、あり得ない設定でのお気楽な恋愛話が繰り広げられる。ハワード・ホークス監督の『ヒズ・ガール・フライデー』(40)を参考にしたという通り、プロデュースも兼任したクルーニーとロバーツが丁丁発止と渡り合うさまが見どころだ(久しぶりにロバーツの大口が全開!)。

 ただ、リリーの結婚観があまりにも能天気で、どうにも興ざめさせられる。ロースクールを出たエリート候補が、旅先の南の楽園で一目ぼれした男と結婚するという状況を冷静に考えれば、両親が「今はいいけど、そのうちに飽きる」と思うのは至極まっとうな話。だから、笑いの核となるべき、両親と娘との対立構造が生むおかしさが弱くなる。

 その分、心底映画に入り込めず、コロナ禍を経た今、「だからこそ、こうした娯楽映画(ラブコメ)が必要なのだ」という思いと、「本当にこんなにお気楽でいいのか」という、二律背反する思いが交錯するような、隙間が生じるのだ。

 このあたりの緩さは、監督が、同種の失敗作『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』(18)のオル・パーカーなので、推して知るべしか。監督はつらいよ。

(田中雄二)