「アメリカのゴールドマン・サックス、週5日出社しない従業員を厳しく取り締まる」というニュースがありました。同社は2021年2月時点で「在宅勤務は『新たな日常』ではない」「在宅勤務は同社の企業文化に合うものではない」ともデイヴィッド・ソロモン最高経営責任者(CEO)が仰っていましたので一貫した考えに基づいているようです。
日本の企業でも、現在、コロナ禍で一般化した在宅勤務を廃止したいという企業は多いです。言うまでなく、何事にもメリットとデメリットがあります。テレワーク(在宅勤務)も同様ですが、同じ時間に同じ場所で働くというメリットは想像以上に大きく、私も社会保険労務士として、在宅勤務を廃止したいというご相談を受けることがあります。
テレワーク終了の問題点
そこで、テレワーク・在宅での勤務を会社が廃止し、テレワーク・在宅で働いている社員を出社するように命じることはできるのかが問題になります。
この点については、1つ見落とされがちな点があります。コロナ禍でテレワークを導入した企業は、2020年に導入した企業が多いはずです。その際には、業務命令(又は要請)でテレワークを導入したケースがほとんどでした。したがって、テレワーク導入の2020年時点では、多くの企業が在宅勤務(テレワーク)の終了をコロナ収束後に合わせて決定できたはずなのです。
ところが現在、2023年の夏も終わる時期ですが、テレワーク導入後に、多くの会社が社員を採用しています。その間に採用された社員の雇用契約書を拝見すると、勤務場所として「社員の自宅(及び会社指定の自宅に準じる場所)」と明記(限定)されてしまっている企業が多いです。そうなると、当然、その方に対しては、雇用契約上の権利として、在宅勤務を廃止し会社での勤務に変更することは命じることはできなくなります。また、法律上の問題を抜きにしても、「在宅勤務だからこの会社に入社したのです。オフィスでの勤務への変更は話が違います」と言われてしまうと、どうしようもありません。
しかし、在宅勤務が法律上の権利だからといって、コロナ禍の間に採用された社員だけ在宅勤務を認め、会社の業務命令で在宅勤務をさせていた社員に対してはテレワークを終了とするのは社内の対立を生みます。一部の社員だけ在宅勤務を認めるのは、業務上の理由があれば別ですが、特別待遇をしているようにみえるからです。
会社がとるべき対応策と社員が確認すべき点
このような問題が起きないためには、雇用契約書を締結する際に、柔軟に対応できるように会社に裁量を残しておくことです。雇用契約書には勤務場所を記載しないといけませんが、「自宅」と限定しないようにしておいたり、例外を設けておくことが必要です。例えば、「ただし、会社は社会情勢等の変化によっては本社での勤務に変更することがある」としておくことです。
これは、在宅勤務に限りません。コロナ禍を経て、フレックスタイム制や時差出勤なども増えましたが、これらの制度も廃止したいというご相談を受けますが、フレックスタイム制を前提に入社した社員に対して、通常の勤務に変更するのは難しいでしょう。雇用契約上、明確な権利として明記するのではなく、会社に裁量を残しておくことが重要です。変化の激しい現在、最も大切なことの一つだと思われます。
逆に、社員の側からすれば、在宅勤務に限らず、その勤務形態で働き続けたいのであれば、「雇用契約書で確定的権利となっているか」「例外が記載されていないか」を確認することが重要になってきます。
コロナ禍を通じて多くの企業が社員の新しい勤務形態を採用してきました。しかし、社会情勢は変化し続けます。この変化を適切に管理し、フレキシブルに対応するためには、雇用契約書の詳細な内容がポイントとなります。企業側も社員側も、互いの権利と義務をしっかりと理解し、良好な関係を築いていくことが求められます。
<筆者略歴>
小嶋 裕司:社会保険労務士
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