『ディア・ファミリー』(6月14日公開)
1970年代。小さな町工場を経営する坪井宣政(大泉洋)と妻・陽子(菅野美穂)の三女の佳美(福本莉子)は生まれつき心臓疾患を抱え、余命10年を宣告される。
どこの医療機関でも治すことができないという厳しい現実を突きつけられた宣政は、娘のために自ら人工心臓を作ることを決意する。
知識も経験もない状態からの医療器具開発は限りなく不可能に近かったが、夫婦は娘を救いたい一心で勉強に励み、有識者に頭を下げ、資金繰りをして何年間も開発に奔走するが、佳美の命のリミットは刻一刻と迫っていた。
世界で17万人の命を救ったとされるIABP(大動脈内バルーンパンピング)バルーンカテーテルの誕生にまつわる実話を映画化。主人公のモデルとなった筒井宣政氏を取材した清武英利のノンフィクションを基に、林民夫が脚本を書き、『君の膵臓をたべたい』(17)の月川翔が監督を務めた。
まるで、無名の人々の知られざる活躍や製品開発プロジェクトを描くNHKのドキュメンタリー「プロジェクトX~挑戦者たち」をほうふつとさせるような発明話だが、これを市井の一家族が成し遂げたところが興味深い。
大泉が演じる父親の、半ば狂気のような開発への執着に驚かされるが、実際、発明とはそうしたところから生まれるものなのだろうという気もする。加えて、彼が受ける差別を通して、医学界に横たわる権威主義や融通の利かなさがあらわになるところもある。
また、この一歩間違えれば危ない人とも思える主人公を大泉が演じることで、ユーモラスな面や人たらしの部分がにじみ出て、押しの強さにも嫌らしさを感じさせない。その意味ではまさに適役だったといえるだろう。
そして、娘を救いたいというエゴむき出しのこの男が、やがて病に苦しむ全ての人たちのためにと、人工心臓からバルーンカテーテルの開発へと変化していくところが、この映画の真骨頂。
妻が夫に問い掛ける「次はどうする?」というせりふが印象に残る。CGやセットで再現された鉄道や建物など、70年代の風景も見どころだ。