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吉田羊、舞台出演は「原点回帰」 憧れの「大人計画」松尾スズキ新作への思い【インタビュー】

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 映画『マイ・ブロークン・マリコ』をはじめ、「仮面ライダーBLACK SUN」や『沈黙のパレード』など、数々の作品で印象深い演技を見せる吉田羊。11月23日から上演されるCOCOON PRODUCTION「ツダマンの世界」では、主人公の小説家・津田万治(阿部サダヲ)の妻・津田数を演じる。本作は、通称・ツダマンをめぐる濃密な人間関係を描くメロドラマ。小劇場から俳優人生をスタートさせた吉田が憧れてきた、「大人計画」を主宰する松尾スズキの2年ぶりの新作だ。吉田に、役柄についてや、本作の見どころなどを聞いた。 

津田数を演じる吉田羊

-まず、本作への出演が決まったときの心境を教えてください。

 松尾さんとはWOWOWのコントドラマで初めてご一緒したのですが、今回お話を頂いたことで、私の芝居に興味を持ってくださったんだなと分かり、うれしかったです。ただ、そのコントドラマの際、松尾さんの笑いを体現できた自信がなかったものですから、どうしよう、しかも舞台なんて、これはさらにハードルが上がってしまったぞと。正直、初日の本読みはものすごく緊張していました。そして自分のふがいなさに撃沈しました。「笑いって難しい!」と。(津田万治役の)阿部(サダヲ)さんや(大名狂児役の)皆川(猿時)さんといった大人計画の俳優さんの、お笑いの「さじ加減」にうなりながら、毎日必死で稽古に食らいついております。

-吉田さんから見た大人計画の魅力は?

 例えば、喪失や戦争といった、重くなりがちなテーマを笑いやユーモアで包み、固定観念や善悪、理性をぶっ壊して、人間の弱さ醜さをえぐり出してエンターテインメントに昇華しているところでしょうか。くすくす笑って見ていたのに、気付くとどうしようもなく泣いていたなんてことも一度や二度じゃありません。そして、見終わった後、優しい気持ちになれるのがとても好きです。痛みや傷を持った登場人物たちには、最後に必ず救いがあって、そんな彼らに自分を重ね、「不完全でもいいよ」と言ってもらえたような気持ちになります。

-では、本作の脚本を読んで、どんなところに面白さを感じましたか。

 ところどころふざけているのに、背景にある戦争描写が史実に基づいていたりするのでリアルなんです。そのアンバランスさや奇妙さが、なぜか戦争の理不尽さをより強く伝えてくるように感じました。戦争反対を声高に叫ぶわけではないけれど、戦時下でままならぬ人生を送る人々を極端に描くことで、戦争って本当にばかばかしいよねという思いがひしひしと伝わってくるし、まさに世界で戦争が起きている、今やる意味のある舞台だなとも思いました。

-なるほど。

 それから、私が拝見してきた松尾作品は、時と場所を限定しないファンタジックな作品が多い印象でしたから、このようにリアルさが表立った脚本はとても新鮮に感じます。とはいえ、やっぱり松尾さんらしい優しさを感じる部分も多くて。阿部さんや皆川さんといった大人計画の俳優さんがしゃべることを前提に書かれたせりふの掛け合いは、読むだけでもその絵が浮かんで面白いです。

-今回演じる、津田数という人物については、どのように捉えていて、どのように演じたいですか。

 数は、この時代を象徴するような、非常にけなげながらも芯の強い女性だなと感じました。ツダマンと再婚し、無学であることや戦争未亡人という身の上に引け目を感じつつも、新聞を読んだり料理の腕を磨いたりして、小説家の妻としてふさわしくありたいと努力している。純粋にツダマンにほれているのだなと感じるせりふも多く、嫉妬したり、嫌われまいと我慢したりといった姿は何ともいじらしいですし、物語の後半、感情が変化していくさまは、一見狂気ですが、その実は切実で胸がキュッとなります。数を演じていると自分と重なる部分もあり、例えば、自信がない故に、求められると喜んで自分を差し出してしまったり、そんな自分を客観視して、前向きに腹をくくっていたり…。松尾さんが私の性格をご存知で、当て書きをしてくださったのかなと思うほどですが、松尾さんが求める数さんになれるよう頑張ります。