-日頃から仕事で関わる脚本家役を演じてみて、印象的だったことは?
黒木瞳さん演じる大物脚本家・大畠凜子(真尋の師匠)とのやりとり中に、「今は他人のリアルをネットで簡単に見られる時代だから。頭の中で考えただけの物語じゃ追い付かなくなってる。自分の足を使って目で確かめて、リアルに追いついて、そこからさらに想像力で追い越す。そうしなきゃ次の10年は生き残れない」という話が出てくるんです。ただ面白おかしく脚色したり、勝手な想像だけで色をつけたりするのではなく、今という時代や題材に向き合い、きちんと取材して、真実を理解した上で、そこに必要な物語をつけ、脚本にしていく。それが、私達が目指すべきことではないの…? そんなアドバイスを真尋がもらうシーンは、すごく印象的でした。
-映画製作にかかわる人にとっては、大事なことかもしれませんね。さらに本作では、真尋や香だけでなく、ピアニストの真尋の姉など、エンターテインメントやアートといった文化的なものに関わる人物が他にも登場し、その魅力と怖さが描かれているのも印象的です。
夢に対して真摯に向き合えば向き合うほど、狂気じみていく紙一重な様子は、とても湊先生らしいですよね。香が「事件を絶対に映画化したい」という執着も、美しさと強さの裏に狂気が潜んでいる感じがして。香が、真尋の過去を掘り下げていくシーンでは、何があったのか知りたい、という欲求を北川さんがまっすぐにぶつけてきたんです。そこでは、人に踏み込まれる瞬間の怖さを感じて、演じていてもドキドキしました。
-そのお芝居は見どころになりそうですね。
とても見応えのあるシーンになったと思います。ただ今回は、湊先生の作品の中でも、希望をより濃く描いていると感じていたんです。湊先生が現場を見学に来てくださったとき、それをお伝えしたら、「そこさえ押さえていれば、自由に演じていただいて結構です」とおっしゃってくださって。だから、「希望」は大事にしたいと思っていました。