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世界で初めての藤田嗣治だけの美術館が誕生! 約180点の作品を所蔵する「軽井沢安東美術館」が10月8日にオープン

軽井沢安東美術館 展示室
軽井沢安東美術館 展示室

 日本のみならず世界で初めての藤田嗣治(レオナール・フジタ)だけの美術館が誕生する。
 10月8日(土)、「軽井沢安東美術館」(長野県軽井沢町)が開館する。藤田が生涯描き続けたモチーフの「少女」、「猫」、「聖母子」の絵画を中心に、初期の貴重な風景画や、藤田の代名詞ともいえる乳白色の裸婦、みずから装飾した家具や食器といった手仕事まで、藤田作品だけを広範に展示する日本唯一の個人美術館である。

 藤田嗣治(1886~1968)は、「乳白色の下地」の裸婦でヨーロッパ画壇を席巻し、時代の花形となる。そして戦前のパリで成功した数少ない日本人画家の一人だ。

 多くの企業再生に携わってきた代表理事の安東泰志(あんどう・やすし)と理事の恵(めぐみ)夫妻が長年収集し、自邸に大切に飾ってきた藤田の作品約180点を所蔵。

安東泰志・恵夫妻
安東泰志・恵夫妻

 安東代表理事は、藤田嗣治の絵画との関りや美術館設立の目的について、次のように語る。

 「藤田という作家について17、8年前に私が収集を始めたきっかけは、藤田が辿ってきた人生と非常に深く結びついている。40代というのは人間が一番働く時期で、非常に辛い目にあったり、デコボコがあったり、山や谷があったりして、そういう時に集め始めた藤田の絵が安らぎとなり、癒やしとなったのです」

 「なぜ藤田の絵は私たちを慰め、癒やしてくれるのか? 藤田という人の歩んだ人生そのものが、いろいろな別れであったり、二度の戦争であったり、さまざまな事象に左右されて、思うようにならない時期、失意の時期もあった、そういう人生だった」「その結果、最終的に到達した境地というのが、展示室でもメインになる少女、猫、聖母子、そういう清らかな世界でした。私たちはそうした高貴な作品と対峙しながら、いろいろな悩みや苦しみを乗り越えてきた、この20年そういう人生でした」

 「この美術館を作るにあたり、私どもが癒やしや安らぎを得てきた同じ空間をここに再現したいと思いました。私どもの自宅に皆さんをお招きして安らいでいただき、何かを感じ取ってもらいたい雰囲気にしたいと思ったのです」
 オープン記念企画として、所蔵作品からほぼ全ての主要作品が展示される。
 展示のコンセプトは4つに分かれる。

 〇「渡仏~スタイルの模索から乳白色の下地へ」—―1913年にフランスに渡った藤田は、さまざまなスタイルを模索しながら、やがてヨーロッパ中を席巻した「素晴らしき乳白色の下地」を完成させる。ここでは安東コレクションの中でもとくに初期の作品を中心に、渡仏後のパリを描いた風景画や、藤田の代名詞ともいえる、透き通るような「乳白色の下地」による裸婦、晩年につながる宗教や子どもをモチーフとした肖像画などを展示。

 〇「旅する画家~中南米、日本、ニューヨーク」――1931年、藤田は新しい恋人のマドレーヌを伴い、パリを離れて中南米へと向かう。ヨーロッパ人ともアジア人ともちがう陰影に富んだ風貌と現地の色彩豊かな風俗にすっかり魅せられて、その画面を彩る筆致と色彩は変貌をとげることになる。ここでは、旅をテーマにした作品とともに、その後日本に帰国して、近づく戦争の足音に呼応するように時代の激流に巻き込まれていく藤田の足跡を紹介。

 〇「ふたたびパリへ~信仰への道」――1950年、フランスに戻った藤田は、懐かしいパリの風景や少女たちの絵を描きはじめる。戦争による挫折を味わい、二度と日本には戻らないと決意した藤田が選んだのは、フランス人レオナール・フジタとして生きる道だった。画題はやがて無垢なる少女から清らかな聖女、あたかもイコンのような聖母子像へと変わっていく。安東コレクションのクライマックスともいえる、荘厳で静謐(せいひつ)な宗教画の世界を紹介。

 〇「少女と猫の世界」――「少女」と「猫」がずらりと並んだこの部屋は、まさに美術館のコンセプトである「安東邸を再現」した展示室。座り心地の良いソファでくつろぎ、藤田の作品をゆっくり鑑賞していただきたい――そんな安東夫妻の長年の思いが実現。藤田財団からの特別な許可により、約半年、この展示室は自由に撮影できる。

 「一般のお客さんも撮影していただいて、SNSにあげてもらってもよい展示室です」と水野昌美(みずの・まさみ)館長はいう。また「中庭のまわりを回廊のようにめぐってもらうように展示室が配されている」のも特徴の一つだと水野館長。

 美術館にはサロンが併設されており、エントランスを入ってすぐ1階に「サロン・ル・ダミエ(フランス語で市松模様)」がある。小規模ながら80席が並ぶサロンは音響効果にもこだわり、定期的なミュージアムコンサートも開催予定。美術館が所有する1899年製のニューヨーク・スタインウェイのピアノは、それ自体が美術品ともいえるビンテージピアノだ。

 また、1921年の創業より多くのコーヒー器具をつくってきた「HARIO」直営のカフェが、美術館の中に開店する。HARIOの器具で入れたスペシャリティーコーヒーや紅茶が楽しめる。

 水野館長によると、世界文化社による公式図録は、美術館のみならず、全国の書店でも入手可能。「より多くの方に藤田という作家を知ってもらいたいという思い」からだという。

軽井沢安東美術館外観

 グランドオープンとなる10月8日の開館は13時。4月から10月までは10時から17時、11月から3月までは10時から16時が開館時間。観覧料は、一般2,000円、高校生以下1,000円、未就学児は無料。休館日は水曜日、ただし祝日の場合は開館し、翌日が休館となる。年末年始、2月にメンテナンス休館がある。
 年に3回程度の展示替えを考えている(水野館長)という。