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かつて極めてSDGs的だった日本の食を取り戻せるのか? 「全国オーガニック給食フォーラム」からの報告[後編]

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 かつて日本の食は極めてSDGs(持続可能な開発目標)的だった。だが今やそれも昔の話。食はすっかり欧米化し、食料自給率も不測の事態に対応できないほどの低さになってしまった。果たして日本は安心、安全で持続可能な食を取り戻すことができるのか?

 10月下旬に東京・中野の「なかのZERO」で開催された「全国オーガニック給食フォーラム」で東京大学大学院農学生命科学研究科の鈴木宣弘(すずき・のぶひろ)教授(農業経済学)からは刺激的かつ啓蒙(けいもう)的な話が飛び出した、

 「かつての日本、例えば江戸時代の農業は循環型で、食もそれに準じた姿でした。いったい、いつから日本人の食生活は大きく変わってしまったのでしょうか?」という問いから鈴木教授は「学校給食が国民の未来を守る」と題したスピ―チを始めた。

 「日本の食生活形成には米国の意思が大きく関与しています。米国は(第2次大戦後の)占領政策として、本国で余った農産物を日本人に食べさせようとしたのです。米国産小麦を食べさせたいので、日本のコメが邪魔だった」と鈴木教授。

 当時、ある医学部教授が「コメを食うとバカになる」という本を書き、初めはまゆつばものだと思われたものの、徐々に「信用」されるようになった、と鈴木教授はいう。「日本人を肉食化するキャンペーンが米国の予算で仕組まれるなどして、日本人の食生活は改変させられ、日本人は米国農産物への輸入依存症となったのです」。

 そして「極めつけは学校給食でした。まずいパンを食わされ、半分腐ったような脱脂粉乳を飲まされ、伝統的な食文化が一変させられた」と鈴木教授は語った。米国の占領政策、洗脳政策は子どもたちをターゲットにしていたのだという。

 鈴木教授はいう、「アメリカの思惑を排除して、子どもたちの未来を守る。学校給食からやられてしまったのだから、それを守らなければならないということなのです」。そして鈴木教授がまず守らねばならないとしたのが「安全な在来種子」だ。

 2018年4月1日、主要農産物種子法が廃止された。このいわゆる種子法は、戦後の食糧難などを背景に、「主要農作物であるコメや大豆、麦など野菜を除いた種子の安定的生産及び普及を促進するため」に制定された法律だった。

 だが、日本政府は「種子法は現代においてその役割を終えている」として廃止に踏み切った。この動きは、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)やRCEP(東アジア地域包括的経済連携)といった貿易自由化の動きと軌を一にしていた。

 かつて日本人の食生活に米政府が横やりを入れた背景にはグローバル穀物商社・食品企業の存在があったと鈴木教授はいう。「今、ゲノム編集作物で再び同じことが行われようとしています。(グローバル種子企業は)ゲノム編集トマトの苗を無償で配って子どもたちを実験台にするつもりだと国際セミナーで発表したくらいです」。

 実際、子どもたちを標的にゲノム編集トマトの「啓蒙普及」が開始されているという。予期せぬ遺伝子損傷の可能性も指摘され、従来の遺伝子組み換えと同等の審査・表示を課す国がある一方で、日本は「届け出のみ、表示なし」での流通が始まっている。

 鈴木教授によると、消費者の不安を和らげ、スムーズに受け入れてもらうために、販売企業はゲノムトマトの苗をまず家庭菜園、障害児福祉施設に配布し、来年から小学校に無償配布し普及させるという。「普及したら特許料が米グローバル種子・農薬企業に入る」

 そのような状況下、まずは学校給食を守り、子どもたちを守るところから始めないといけない、と鈴木教授は力説する。「学校給食の食材調達については、各自治体の条例制定などによってトータルな仕組みを作っていくことが重要です。それで地元のおカネが足りなかったら、国が補填する仕組みを考えていけばいい」と鈴木教授は続けた。

 「子どもを守る政策は社会全体の幸せにつながります。波及効果は大きいし、費用対効果も大きい。そのことをもう一度確認する必要がある」と鈴木教授は力を込める。「国が全国の小中学校給食を無償化するのに必要なコストは5,000億円弱。一方で、ファントム戦闘機を購入するのに6兆円使ったのです」と鈴木教授は皮肉を込めていう。

 「現在の状況が続けば、半年で日本の農家は4割減ってしまう。子どもを守るには国家戦略としてトータルな政策が不可欠です」

 「学校給食を通して、安全安心な食を提供することで子どもたちの健康を守れると同時に、農家にとっても大きな需要先となるのです」

 鈴木教授は1958年生まれ。東京大学農学部卒業。農林水産省に入省し、およそ15年勤務した後に、学会へ転じる。主な著書に「食の戦争 米国の罠に落ちる日本」(文藝春秋)、「悪夢の食卓 TPP批准・農協解体がもたらす未来」(KADOKAWA)、「農業消滅 農政の失敗がまねく国家存亡の危機」(平凡社)などがある。