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時代を担う子どもたちに安心・安全な学校給食を! 「全国オーガニック給食フォーラム」からの報告[前編]

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 資本主義経済のもとで日々の生活を営んでいる私たち。否応なしに、モノ・サービスの効率化・コストという論理に絡めとられ、文字通り「生きる糧」であるはずの食べものでさえ、例外ではなくなっている。だが、次世代を担う子どもたちにはせめて安心・安全な学校給食を食べてほしいという活動が全国的に広がりを見せつつある。

 本会場、オンライン、サテライト会場で計3,200人超が参加した「全国オーガニック給食フォーラム」が10月下旬に東京・中野の「なかのZERO」で開催された。学校給食の有機化などで先進的取り組みをしているフランス、韓国をはじめ、国内自治体の例が報告されるとともに、農林水産省、文部科学省からは国の方針・政策が説明された。

 フランスからは翻訳家の前田レジーヌさんの報告があった。同国では、2013年に有機認証制度「EC CERT(エコセール)」がスタートした。昨年までにおよそ2,700の施設が認定を受けたが、そのうちの多くは学校だという。

 画期的ともいえるのが、2018年にフランスで通称「エガリム法」が制定されたこと。2022年から、学校給食を含む公共食堂で使われる食材の50%を持続可能で品質が優れているもの、うち20%を有機(オーガニック)食材にすることが法的に義務付けられた。

 次に韓国の事例が、カン・ネヨン慶熙(キョンヒ)大学専任教授から報告があった。かつて韓国では給食の外部委託が進み、企業は利益を追求したため、食中毒などの問題が多発していたという。よい食材を使ったよい給食をという親たちの訴えが、給食に地場農産物を使うよう求める農民運動に出会った、とカン専任教授は解説する。

 2006年には、給食を委託されていた大手食品企業が食中毒を起こし、4,000人以上の生徒たちに被害が出た。国会議員もこれを重くとらえ、学校給食法が全面改正された。それにより、学校給食は委託でなく直営が基本となり、「優秀な農産物」の使用が義務となった。

 「親環境給食」は一気に広がったわけでなく、段階的に進められている。ちなみに韓国の給食は「無償」である。最初に小学校、次に中学校、高校は3年生、2年生、1年生という順番で、そして今年は幼稚園で給食の無償化が実現した。かつての「無料」給食は、貧困層だけを対象に行われていたため、いじめや排除といった問題を生んだという。

 ソウル市では農薬、化学物質、放射能など5つがない給食を目指してきた。有機農産物や化学肥料の使用を減らした農産物などを含む食材(親環境農産物)を使った給食を、市内のほぼすべての小中高校で実現させている。農業の有機化によるソウル市における生産誘発効果は約3兆3,000億ウォン、付加価値誘発効果がおよそ1兆4,000億ウォンで、農家収入は13.3%増加した、とカン専任教授は試算を披露した。

 目を日本国内の動きに転じよう。「全国オーガニック給食フォーラム」実行委員会実行委員長を務めた太田洋・千葉県いすみ市長はいう、「次代を担う子どもたちに、なるべく体によいものを食べさせたい。(2017年に実現した市内の)有機米100%の学校給食は、純粋な思いから始まりました。市民も議会も反対せず、今では市民の大きな誇りになっている」。

 「食べ物は人の体も、そして心も作ります。私たちは今、持続可能性という世界共通の極めて手強い課題に直面しています。これを乗り越えていく次世代を、持続可能性に富んだオーガニック食材で育てることが、私たち現代の大人たちに課せられた使命です」。

 同市の鮫田晋職員は「米価下落、肥料高騰、異常気象、規模拡大、高齢化と現代の農家はまさに苦難に次ぐ苦難の連続。有機農業に挑戦するということは少なからず農家に負担やリスクを負わせるのだから、どうしたら農家が安心して取り組めるか。農家の意識を変えれば有機が広がるというような単純な話ではない。何があっても我々は支援しますという姿勢を示すことが農家との信頼関係の始まりだった」という。

 また以前からオーガニック給食に取り組んできた地域としては東京・武蔵野市や愛媛県今治市なども挙げられる。武蔵野市では現在、すべての小学校で「安全給食」が実現している。今治市では、自校調理方式をとり、地元の有機農産物を優先的に使用している。

 昨年8月に開設され、日本各地で活動する人たちをつなぐプラットフォームサイト「オーガニック給食マップ」によると、有機給食を実施している自治体は約60を数えるようになり、活動中のグループ数になるとおよそ130に上るという。

 農林水産省では昨年、持続可能な食料システムの構築に向けて、「みどりの食料システム戦略」を策定した。2050年までに輸入原料や化石燃料を原料にした化学肥料の使用量を30%減らすこと、化学農薬の使用量をリスク換算で50%低減すること、有機農業の取り組み面積について、耕地面積の約25%にあたる100万ヘクタールまで拡大することを掲げている。ちなみに現在、全農地のうちで有機農業に取り組んでいるのは2万6,000ヘクタール(0.6%)。

 農林水産省では、生産から消費まで一貫した取り組みを地域ぐるみで進める市町村「オーガニック・ビレッジ」を支援している。現在、55市町村、そのうちの7割くらいは学校給食での有機食材使用を眼中に入れているところだ、と佐藤夏人・農産局農業環境対策課長。

 文部科学省の青山恵津子・初等中等教育局健康教育・食育課係長は、食育推進基本法の目標にある学校教育における地場産食材の使用を支援しているが、さらに有機農産物の活用についても同様に支援する予定だと説明した。「学校給食は、食に関する指導を効果的に進めるための“生きた教材“としても大きな教育的意義がある」と青山係長はいう。

 「全国オーガニック給食フォーラム」は、「オーガニック給食宣言」で閉会となった。
 「世界が食や農のあり方を見直す流れにある中で、日本ではそれに逆行するかのように、農薬の規制緩和、遺伝子組み換え作物、ゲノム編集食品、食品添加物、種子法廃止や種苗法の改定など、消費者や生産者にとって不安になる問題が次々と起きています。さらに、日本の農業は種子や肥料を海外に大きく依存し、食料自給率はおよそ38%、農業従事者の数は下降の一途をたどっています」

 「保護者、生産者、自治体、教育関係者、地方議員、国会議員・・・今、全国各地で多くの人たちがそれぞれの立場を超えて給食をオーガニックに変えようと動き始めています。なぜなら、給食をオーガニックにすることは、地域の農業を支え食料自給率を上げ、環境を守り、私たちの身体を健やかに育み、雇用や経済までをも豊かに変えることのできる最善の方法だと確信しているからです」

 「そして、持続可能な社会をつくり、次世代に伝えていくことこそが、私たち大人から子どもたちへのギフトに他なりません。子どもたちのためによりよい未来を残したい! より安心で安全なオーガニック給食に変えていくために、全国の仲間たちと力を合わせていくことを誓って、ここにオーガニック給食宣言をいたします」