カルチャー

近代日本画の流れをけん引した速水御舟の軌跡を追って 茨城県近代美術館で「速水御舟展」

<菊花図>1920年 紙本金地彩色・四曲-双屏風(左隻)
<菊花図>1920年 紙本金地彩色・四曲-双屏風(左隻)

 近代日本画の流れをけん引し続けた速水御舟(はやみ・ぎょしゅう)。その御舟の大規模展覧会が15年ぶりに地方にやってくる! 茨城県近代美術館(水戸市)で「速水御舟展」が2月21日(火)から3月26日(日)まで開催される。

 わずか30年という短い画家活動だったが、その画風は生涯を通じて大きく変遷した。大正期の精緻を極めた細密描写による写実表現から、古典的な絵画への回帰を経て、単純化と平面化を伴う後期作品へと変化した軌跡を追いかける。

 速水御舟(1894~1935)は、明治の末期から昭和初期にかけて活躍した代表的な日本画家の一人。この展覧会では本画約100点と素描により、型にはまることを嫌い、振幅の激しい画業を通して“描くことの意味”を問い続けた御舟の道筋をあらためて振り返る。

 「梯子(はしご)の頂上に登る勇気は尊い、更にそこから降りて来て、再び登り返す勇気を持つ者は更に尊い」――型にはまらぬように「破壊」と「創造」を繰り返した御舟の言葉だ。

 大正期の御舟が、対象をくまなく見つめ、執拗(しつよう)なまでに試みた細密描写の極みともいうべき作品が「菊花図」(1921)。赤、黄、白のさまざまな種類、形状の菊が金びょうぶに映える様はとても華やかだが、その一方で、花弁、葉の一枚一枚に至るまで妥協なく描き切った。

 この作品を見た小倉遊亀は言った。「菊の細管の花の一つ一つに見入る敬虔な態度に深くうたれた・・・細密描写がいわゆる形の上の描写だけでなくていつも新鮮な味を盛りあげているのは、対象がいつも対象の域をこえて新しい驚異となって御舟のチカラへ入りこんでいたからだと思う」(『現代日本の美術<第3巻>速水御舟』集英社刊)。

 御舟は大正期には静物画を何点も手がけて、抽象的な空間に果物や器、布などを配し、見事な質感と量感の描写によって一部の隙もない小世界を創り出した。「鍋島の皿に柘榴」(1921)は代表的な静物画の作例で、当時、油絵の質感を目の当たりにした御舟が、日本画の顔料でどれだけ対象の質感をとらえ、物の実在感を表せるかを試みた作品だ。

<鍋島の皿に柘榴>1921年 絹本彩色・額装
<鍋島の皿に柘榴>1921年 絹本彩色・額装

 やきものと果実という「無機質と有機質との異質なものの組みあわせがみせる、えもいわれぬ美しさをみせる対象の実在感に、表現せずにはおけない深い感銘を得たのであったろう」と前述の本の中で弦田平八郎氏は書いた。

 また、御舟はその画家生活を通して、花卉(かき)画や花鳥画を描いている。花や動物たちを描き出す、色彩豊かで計算され尽くされた描写のさえや構図の妙、墨や「たらし込み」を駆使した濃淡自在の筆さばきの見事さなども大きな見どころ。ちなみにたらし込みとは、一色の絵の具を塗って、乾かないうちの別の一色を垂らし、にじみの効果を出す技法を指す。

<花の傍>1932年 紙本彩色・額装 株式会社歌舞伎座
<花の傍>1932年 紙本彩色・額装 株式会社歌舞伎座

 会期中イベントとして、尾﨑正明館長による鑑賞講座「速水御舟、その生涯と芸術」が2月26日(日)午後2時~3時半まで行われる予定。

 開館時間は午前9時半から午後5時まで(入館は午後4時半まで)。休室日は3月13日(月)。会期中、一部作品の展示替えがある。入場料は一般1100円、満70才以上550円、高大生870円、小中生490円。春休み期間を除いて土曜日は高校生以下無料。

 Web予約が便利。茨城県近代美術館のホームページで「日時指定WEB整理券」(無料)を取得した人が優先入場となる。来館日の1カ月前から予約可能。

<洛北修学院村>1918年 絹本彩色・額装 滋賀県立美術館
<洛北修学院村>1918年 絹本彩色・額装 滋賀県立美術館