カルチャー

ノートルダム大聖堂再訪 5年余の修復工事を経て、よみがえった世界遺産

白い壁面とステンドグラスからの採光、シャンデリアが明るい聖堂内

 13世紀に建てられたゴシック建築の代表作、パリのノートルダム大聖堂。この世界遺産は宗教の垣根を超え、一つの芸術的な建築として世界中の人々に愛されてきた。パリを初めて訪れる観光客が目指すフランスの“一つ目の観光地”でもある。だからこそ、2019年の火災のニュースは、多くの人に衝撃を与えた。5年以上にわたる修復工事を経てよみがえった大聖堂を再訪した。

 5年前、火災の映像で最もショックだったのは、大聖堂のシンボル、尖塔が崩れ落ちた瞬間だった。屋根に穴があき一向に収まらない火の手に、「これはもう無理」という思いを多くの人が抱いた。無理、というのはあのバラ窓もクストーのピエタ像も、落ちた屋根の骨組みもろとも消滅してしまうかもしれないという絶望的な思いだった。9時間後に消し止められた“火災現場”は、やはり崩落した天井でがれきの山。だが、そもそも修復工事中だった大聖堂の彫像の多くが火災前から工房で保管されていたり、主要な構造物やバラ窓、パイプオルガンも焼失を免れたりということがだんだん分かってきて、マクロン大統領の「再建の約束」が素人目にも再訪への希望の出発点になっていた。

いばらの冠が収められた聖遺物容器

 そしてこの春訪れた大聖堂には、予想通り以前に増して多くの人が訪れ、時間予約なしで来た人々の大行列ができていた(大聖堂のホームページで訪問日の2日前からオンライン予約ができる。空いていれば当日でも予約可能だし、「予約なし」の列で待てば入場は可能だが、時間によってはかなり混雑するので事前予約をお勧めする)。

 聖堂内は白く修復され、さらに何世紀にもわたって蓄積したさまざまなものが払われたせいか、以前より格段に明るく見える。身廊や内陣、袖廊のオーク材による屋根構造と鉛の屋根は、完全に元の形で復元されている。

 入るとまず、新しく設置された青銅製の洗礼盤に出迎えられる。表面は水面が波打っているかのように輝いている。そのはるか向こうに黄金の十字架とピエタ像。壁のフレスコ画や絵画なども職人の手で見事に修復されており、多くの人がスマホで撮影したり、翼廊に立ち止まってキャンドルを奉納したり。

入り口で出迎える洗礼盤

 側廊をさらに祭壇に向かって歩いていくと、被害を免れたバラ窓が見えてくる。健在を祝福するかのように多くの人が立ち止まり見上げては、その美しさにため息をついている。そしてさらに進むと、大聖堂で最も重要な遺物といわれるイエスの「いばらの冠」をおさめた円形の聖遺物容器が見えてくる。ガラスブロックや金を組み合わせて作られているといい、ここもまたひときわ明るく輝く場所になっていた。

バラ窓

 大聖堂の外側には、数年にわたる修復の様子を写真とテキストで説明したパネルが建てられており、中世の技法を受け継ぐ職人たちが丁寧に修復作業をしてきた様子をじっくり追うことができる。

 大聖堂の側面はまだ足場が組まれて作業が続いており、正面広場の整備もこれからだ。広場は森の空き地をイメージした設計になっているといい、大聖堂内部の床と同じような寸法の石灰岩の敷石で覆われるほか、入場を待つ人が日陰で快適に過ごせるようにと、広場の両側に150本の木が植えられる予定だという。