
いつか乗ってみたい、と思うような豪華列車がある一方で、日常的に使う交通機関でも、旅先などで見慣れない鉄道を使うと、そのデザインに心ひかれることがある。『鉄道車両デザインの教科書』(南井健治著、イカロス出版、税込み3080円)という本が発売された。異なる文化や宗教をふまえつつ海外の車両などもデザインする著者の、30年以上にわたる知見が詰まっている
「世界一美しい車両が欲しい」という要望を著者に出したのは、アラブ首長国連邦の都市を走るドバイメトロ。抽象的で無茶とも思えるこの要望に著者が応えていく過程は苦労の連続だが、読み手にとってはかなり興味深い物語だ。鉄道車両の「デザイン」と聞くと、色や形を決めるスタイリングを思い浮かべるが、実際絵を描くことはデザイン作業のほんの一部分に過ぎない。鉄道車両の製作がどのように進み、デザイナーはなにを考え、どういう仕事をしているのかを、豊富な実例とともに紹介している。色や形の意味を知り、名車誕生の理由も見えてくる。
ドバイ案件で著者が経験したものは、日本国内にいる車両デザイナーでもほとんど経験がないもので、知られざる実情が明らかになる一冊だ。