まめ学

クワガタ人気の理由は“里山” 五箇さん、大昆虫展で解説

 日本では子どもらに人気のクワガタムシやカブトムシだが、海外ではそうでもないらしい。“所変われば品変わる”で、別段珍しい現象ではないが、「なぜ日本では人気なのか」と正面から問われると案外答えるのは難しい。この“難問”を考える催しが8月20日、東京スカイツリータウン(東京都墨田区)で開かれている「大昆虫展」の特別イベント「フマキラー昆虫教室」として行われ、国立環境研究所の五箇公一さんが、たくさんの親子連れを前に、日本人のクワガタ・カブト人気の理由を解説した。
 五箇さんによると、日本ではクワガタを意味する各地方での呼称(方言)はかつて200種類ほどあったという。クワガタやカブトなどをひとまとめにして「ビートル」と名付ける海外の国と比べると、その多彩な呼び名が際立つ。五箇さんは「これだけ多くのクワガタを指す言葉が日本にあったことからすると、日本人のクワガタ好きは歴史的な現象」と話した。
 その上で、日本人のクワガタ・カブト好きは、日本人の伝統的な「里山での生活様式」によって育まれた面がある、と指摘した。

なぜ日本ではクワガタムシやカブトムシが人気なのかを説明する五箇公一さん
なぜ日本ではクワガタムシやカブトムシが人気なのかを説明する五箇公一さん

 「クワガタの幼虫は里山の朽木を食べ、良い土壌ができる環境を作る。クワガタがいる環境は、豊かな土壌、豊かな農作物を意味したのではないか」と五箇さんは言う。カブトムシの幼虫も落ち葉を食べ、良い土作りに一役買う。日本人のクワガタ・カブト好きは、豊かな土壌での農業を育む「里山の生活様式」から生まれたというのが五箇さんの「仮説」だ。
 古代エジプト人は太陽信仰から、ふんを転がすスカラベ(ふんころがし)を「神の化身」と見ていたというから、各国の生活様式や風土によって尊重する昆虫は各国のお国柄で異なる。
 五箇さんは最後に「日本の里山が少なくなってきている」として、昆虫への関心を通じてあらためて地元の自然環境の在り方を考えてほしいと強調した。

蚊などの生態を話すフマキラーの佐々木智基さん(左)
蚊などの生態を話すフマキラーの佐々木智基さん(左)

 日本ではクワガタ、カブトのように人気者の昆虫もいれば、そうでない不人気の昆虫もいる。不人気の理由は、人気の理由に比べれば、少しは説明しやすいかもしれない。人間や家畜、農作物などに害を与える、いわゆる「害虫」といわれるものの多くは不人気だろう。
 ただ、この人間生活にとっては害となる「害虫」と、逆に役立つ「益虫」との“区別”は、自然循環全体のことを考えるとそう簡単なことではない。
 五箇さんの話の後に、蚊やゴキブリなどいわゆる「害虫」の話をしたフマキラー(東京都千代田区)の佐々木智基さん(理学博士)は「マラリアなどの伝染病を媒介する蚊は人間に死をもたらすことがあり駆除が必要だが、すべて駆除してしまえばいいということでもない。蚊の幼虫であるボウフラは魚の餌になる。だから、すべての蚊を駆除してしまうと魚が育たなくなる。森などにいる屋外のゴキブリは生物の死骸などを食べて腐敗物の分解を促進する」と述べ、食物連鎖や生態系全体の循環に関心を持つことの大切さを指摘した。

展示中のメンガタブラべラスゴキブリ
展示中のメンガタブラべラスゴキブリ

 大昆虫展に協賛するフマキラーは、ゴキブリの多面的な生態に注目してもらおうと、ペットとして人気があるという「メンガタブラべラスゴキブリ」など世界の珍しい10種類ほどの生きたゴキブリを大昆虫展で展示している。昆虫の世界は奥深く、人気・不人気、害虫・益虫の区別は一筋縄ではいかない。