日本や地域社会の未来を切り開く起業家精神(アントレプレナーシップ)を養う目的で日本政策金融公庫(日本公庫)が主催する「高校生ビジネスプラン・グランプリ(GP)」。そのファイナリスト10校(チーム)が参加した最終審査会が1月12日、東京都文京区の東京大学内にある伊藤国際学術研究センター・伊藤謝恩ホールで行われ、稲の新たな栽培方法と肥料を開発し販売するプランを発案した宮城県農業高の「チーム温故知新」がグランプリに選ばれた。報奨金20万円を獲得した。
▽2度のどよめき
「10年後の売上は500億円」。チーム温故知新のプレゼンテーションに、客席にいた金融・ビジネス界の関係者からどよめきが上がった。12回目(うち1回は中止)を迎えたビジネスプランGPに寄せられた過去最多の536校、5151件の頂点に立った同チームのアイデアは失敗から生まれた。
稲作実習で田植え機の肥料投入ボタンを押し忘れたことがきっかけだった。いずれ成育が滞ると諦めていたが、肥料がないことでかえって養分を求める根が肥料を与えたものより大きく成長。チームはこれを「ど根性栽培」と名付け特許を申請。さらに根が張ったところで遅効性の新肥料「Re:温故知新」を提供するサービスを考案した。これにより肥料費を8割、労務費を6割、削減するとしている。
プレゼンテーションの最後には「ここだけの話だけど、2日前に大手農機具メーカーから専用の機械を開発したいとの申し出が来た」と明かし、再びどよめきを誘った。チームの星碧虎さんは「失敗は成功の元。グランプリに選ばれたことより、このアイデアを発信できたことが成果」と喜んだ。審査委員長の高橋徳行・武蔵大学長は「失敗や、先生や肥料メーカーの当初の悲観論にもめげない反骨精神がベースにある。これこそアントレプレナーシップ」と評価した。
▽さまざまなプラン
準グランプリ(報奨金10万円)は、災害時の避難生活を廃校で体験するプランを提案した静岡県の浜松学芸高・社会科学部地域調査班が選出された。プレゼンでは「防災訓練の参加率が低い」と指摘。「そこで訓練と観光をかけ合わせ、災害とともに生きる社会をつくる」と説明。高橋審査員長は「防災に楽しさを取り入れたことを評価した」と話した。
審査員特別賞(同5万円)は三つが選ばれた。熊本県の玉名工業高「Ⅴ Ostriches(ファイブ・オーストリッチーズ)」は、熊本大が開発した新素材のマグネシウム合金を活用し、フライパン「KuMyパン」を考案。「材料の新時代を構築し世界と戦える日本を再構築したい」とアピールした。智弁学園和歌山高「カロリーメイトブルーベリー味」は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)患者の寝返りをサポートするコルセットを開発。「SASの人もその家族も笑顔で眠れる社会をつくりたい」と訴えた。埼玉県の早大本庄高の中塚ノアさんは米アップル社の協同創業者であるスティーブ・ジョブズ氏を意識した服装で登場し、「多すぎる情報量に疲弊している」Z世代を意識した電子商取引(EC)サイト「qUick」を提案した。
優秀賞の5チームには報奨金2万円が贈られた。
青森県・名久井農業高「FLORA HUNTERS」は、奨学生の負担を軽減するため東北6県の農家が連携し、年に4日以上農作業を行った学生に月1回無償で食料を提供する仕組みを考案。静岡県の伊豆伊東高「伊豆伊東アグリスポーツ部」は、農家の人手不足解消を目的に、農作業をスポーツイベント化して子育て世代のファミリー層を呼び込むアイデアを提案した。
神奈川県の飛鳥未来高横浜関内キャンパスの矢萩友喜さんは、企業と若者が気軽に交流できるノンアルコールバー「ご縁BAR」のプロデュースを打ち出した。徳島県の小松島西高「TOKUSHIMA雪花菜(おから)工房×藻藍部」は、海中の藻場を喪失させる磯焼けを防ぐため食害魚を活用した商品を開発、販売するプランを提案。東京都の東京学芸大付属国際中等教育学校の中川心之介さんは、かつて住んでいたベトナムでの体験を基に、途上国の生産者らを支援するため適正な価格で商品を取引するフェアトレードを推進するプランを発表した。
▽企業の本質
高校生ビジネスプランGPは、2011年の東日本大震災によって景気動向が悪化し、日本公庫の創業融資件数も史上最低になるなどしたことから、これからの日本を背負う若い世代にアントレプレナーシップを養ってもらおうと13年度に開始。これまでには、「スキマバイト」紹介アプリを手がけるタイミーの小川嶺社長も参加している。
今回の最終審査会には、石破茂首相がビデオメッセージを寄せ「さまざまなアイデアで地域を元気にワクワクするものにしてくれることを期待している」と話した。高橋審査員長は「アントレプレナーシップは、ビジネスとして捉えられがちだが、本質的には社会の課題を解決したい、困っている人を助けたいという思いが出発点であるということを改めて学ばされた」と高校生らの努力をたたえた。