ビジネス

【事業承継はいま】<中> M&Aなど第三者承継が増加 後継問題改善、支援メニューも

 中小企業経営者の年齢が高止まりする中で、後継者不在率は年々低下し、改善が続いている。従来は主流だった親族への事業承継が後継ぎ難で減少する半面、成長力が高いといわれるM&A(企業の合併・買収)による第三者承継などへシフト。こうした変化に対応した政策・支援メニューも拡充されているためだ。

▽世代交代で成長促進

 2019年の中小企業庁推計では、25年までに平均引退年齢(70歳)を超える中小企業経営者約245万人のうち、半数の127万人は後継者未定だった。事業運営を経営者個人の能力などに依存する度合いが強い中小企業では、後継者は見つかりにくく、事業承継が遅れがちになる。こうした状況を放置すれば、廃業などにより「25年までの累計で約650万人の雇用、約22兆円の国内総生産(GDP)が失われる可能性がある」と警鐘が鳴らされた。

 その後も中小企業経営者の高齢化は続いているが、中企庁によると、70歳以上の経営者の割合は「前年比の増加率が19年の6.0%から漸減し、23年には0.1%まで低下。いずれは減少に転じる」見通しになっている。19年に70代の経営者で40%だった後継者不在率も、23年には30%まで下がり、その分40~60代への事業承継が進んでいる。

 帝国データバンクが行った23年の全国「後継者不在率」動向調査(全業種の約27万社対象)でも、後継者不在率は53.9%と、調査を開始した11年以降の過去最低を更新しており、後継者問題は改善傾向にある。コロナ禍前から官民一体で推進してきた事業承継の重要性が中小企業に浸透してきたことに加え、「M&Aの普及や事業承継税制の改良・拡大、金融機関主導の事業承継ファンドなど、多種多様なニーズに対応可能なメニューがそろってきたことが、後継者問題の解消に大きな役割を果たした。今後も、国や自治体の働きかけにより、後継者不在率は低下していくだろう」と予測されている。

 東京商工リサーチの分析によれば、事業承継・M&Aから1~5年後の中小企業の業績は、同業種の平均値より、当期純利益成長率で20%前後、従業員数の成長率も0.5%前後それぞれ高い成長率を示している。同時に、後継者が若いほど、成長率が高くなる傾向が見られるという。若い後継者は事業再構築にも積極的なため、デジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)といった、今日的な経営革新のきっかけにもなり得る。

 さらに、デフレ脱却後の日本経済を成長軌道に乗せるには「物価高を上回る賃上げ」が必要になる。政府が賃上げを促す中で、企業数が国内全体の99.7%、従業員数が69.7%を占める中小企業のインパクトは大きく、その動向が注視されるようになった。しかし中小企業は大手に比べ労働分配率(企業が生産した付加価値に占める人件費の割合)が高く、賃上げは経営にとって大きな負担になる。折からの人手不足と物価高の下で、継続的に賃上げを行っていくには、商品への価格転嫁などのほか、生産性の向上が必要になる。このため、中企庁は「事業承継やM&Aで中小企業の世代交代が進むと、アベレージで企業の能力がアップする」(財務課)傾向に着目し、中小企業の成長力を高める施策を強化している。

▽親族外承継へシフト

 事業承継は、経営の引き継ぎ先によって親族(同族)承継、従業員承継(内部昇格)、社外の第三者へ引継ぐM&Aに大きく3分類されている。帝国データバンクの調査によると、17年には親族承継が最も多い41.6%、従業員承継31.1%、M&A15.9%の順だったが、23年には従業員承継が35.5%に増え親族承継(33.1%)と逆転、M&Aも20.3%へ増加している。
 日本政策金融公庫総合研究所は23年に行った「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」で「かつては男性の実子、特に長男の事業承継が主流だったが、かなりの速さで親族以外への承継に移行している」と分析。今後の課題として①親族以外への事業承継を後押し②廃業になっても他の事業者に経営資源を円滑に引き継ぐことができる施策――を挙げ、「すべての廃業をなくすのは不可能でも、望まない廃業や経営資源の散逸を防ぐことは、経済社会にとって重要な課題」と指摘した。

 こうした代替わり先の変化が続く中で、事業を引き継ぐだけでなく、中小企業の成長につながる方法として、M&Aがあらためて脚光を浴びるようになった。第三者への承継が増えているが、「特別な技術や商品がない場合、承継に成功した企業の多くはそれなりに規模が大きい」(日本政策金融公庫総合研究所の井上考二主席研究員)という傾向がある。

 経済産業省の調査によれば、M&Aを実施した中小企業の経常利益は17年度を100とした場合、21年度に146.9に上昇し、M&Aを実施していない企業の118.2を上回った。労働生産性も実施企業105に対し、実施していない企業は100.7だった。23年度の「中小企業のM&Aに関するアンケート調査」によると、さらに複数のM&Aでグループ化を進める企業は、売上、利益、労働生産性などがいずれもM&Aを実施していない企業や単独のM&A実施企業を上回った。

 さらに統合効果を最大化するには、統合プロセスとなるPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)が鍵を握るとしている。PMIなどに関する調査によれば、M&Aが成立する前の早い段階からPMIの検討を始めた企業ほどM&Aの満足度が大きく、「満足」と答えた企業の多くがM&A成立前に、相手方の経営者や従業員とのコミュニケーション、相手方のキーパーソン把握、経営方針のすり合わせなどをしていたという。中企庁は「M&Aを成功させるには、それによって達成したい目的と戦略を、相手方とのコミュニケーションを通じて明確化することが重要」と指摘している。