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世界の覇主になりたがっている習近平 あらゆる分野に方向を明示

世界の覇主になりたがっている習近平 あらゆる分野に方向を明示 画像1

 

作者:中国ウオッチャー 龍評(りゅう・ひょう)

 

 中国国営通信、新華社系の新聞「参考消息」で一つの報道タイトルが大きな話題となった。そのタイトルは中国語で「外媒关注:习近平为全球发展指明方向」。日本語に訳すと「外国のマスコミが注目:習近平が全世界に発展の方向を明示した」であった。その記事は6月25日付で、ネット上だけではなく、紙面のトップを飾り、習氏の大きな写真とともにアップされた。権力闘争も絡む中国共産党第20回大会の前うんぬんという敏感な時期に、あまり衝撃的な画面であった。

 参考消息は新華社に所属した新聞紙で、主に外国のニュースを扱う。中国政府の喉と舌とされた「新華社」は、ほかのマスコミに通用原稿を提供する一番重要な政府系新聞社だ。中国政府の声を代言する社の報道である上に、トップに扱われる記事に込められた意義は無視できない。習氏は中国だけではなく、世界のリーダーだと強調している。

 そもそも、習氏が国際社会を統領したい意欲を示しているのは久しい。すでに「習近平が××に方向を明示した」は報道の決まり文句になっている。ざっと検索すると下記のように多くの記事が出てきた。

 分かりやすいように中国語と日本語を併記して下記にピックアップしてみた。

 

中国語:为推动全球合作发展指明方向——习近平主席向“2021从都国际论坛”开幕式发表的致辞引起与会人士热烈反响。(2021-12-06)

日本語:全世界の協力と発展のために方向を明示した―習近平主席のあいさつは「2021従都国際フォーラム」開幕式で参加者から熱烈な反響を呼んだ。(2021年12月6日)

 

中国語:共同构建地球生命共同体,习近平这些话指明方向!(2021年10月12日)

日本語:地球生命共同体を共に作ろうと習近平の言葉が方向を明示した。

 

中国語:新时代中非合作,习近平指明方向(2021年12月1日)

日本語:中国とアフリカ新時代の協力に習近平が方向を明示した(2021年年1月1日)

 

中国語:如何开启人类高质量发展新征程,习近平指明方向(2021年10月19日)

日本語:いかにして人類の質の高い発展の始まりか、習近平が方向を明示した(2021年10月19日)

 

中国語:习主席致辞为世界未来发展指明方向(2021年1月28日)

日本語:世界の未来発展に方向を習近平の講話が明示した(2021年1月28日)

 

 以上は習氏が世界における発展方向を明示した報道の部分リストである。中国国内の発展方向を明示した記事も入れると気が遠くなるような数になる。2020年から2021年までの間に、ざっと見ると全部で17を超える「指明方向(方向を明示した)」の報道があった。それで国内の教育、文化、衛生、体育などから、国際関係や全世界の環境問題までの発展方向は習氏によって明示されたことになる。「よくあきないな」と中国デジタル時代網が風刺を交えてこの怪奇現象を評した。

 着任して以来、習氏は中共中央総書記、国家主席、中央軍事委員会主席のほかに、国家安全委員会主席、中央全面深化改革領導グループ長、中央軍事委員会国防と軍隊改革領導グループ長、中央ネット安全と情報化グループ長、中央外事国家安全工作領導グループ長、中共中央台湾工作グループ長、中央財経領導グループ長を全部兼任した。

 神格化されるのを拒まなかった習氏を喜ばせるために、幹部からマスコミまでこぞって彼を毛沢東氏のように持ち上げてきた。とうとう中国のリーダーだけではもう満足ができず、いずれ米大統領に替わって習氏が世界のリーダーになることに。今年の6月25日、つい「全球(全世界)」の発展方向を明示したと「参考消息」が打ち出した。

 習氏をそこまで酔わせた側近中の側近がいる。それは現中央政治局常務委員で、習氏の講演原稿の主筆、マスコミの報道基調を決める王滬寧(おう・こねい)氏だ。

 王氏は中国で3代の国家最高指導者を補佐し、民間に「国師」と呼ばれた人物であった。江沢民時代から中央政策研究室政治グループ長を勤めて、胡錦濤(こ・きんとう)時代は中央政策研究室主任、中央書記処書記に抜てきされた。

 

 江沢民時代に王氏は「三つの代表」思想を考案し、江氏の理論思想に大きく貢献した。胡氏には「科学的な発展観」という治国理念を考案し、世に打ち出した。習近平時代になると、彼は7人しかいない政治局常務委員の1人となり、習氏の好みに迎合して、「習近平思想」の確立に腐心し、習氏を核心とする新権威主義を唱えてきた。彼は中国の意識形態領域に君臨して、習氏の神格化と中国共産党へ信仰の回帰などを主導した。

 2021年2月25日、中国共産党祁連県委員会の公式サイトが「習近平総書記が中国共産党第19回五中全会での発言」の抜粋を掲載。そこに新華社など政府系マスコミには決して刊行させない習氏の米国に対する本音が書かれた。

 「現代世界混乱の最大根源は米国で」「米国はわが国(中国)の発展と安全の最大脅威」「東昇西降は(中国に)有利で、未来に対する(正しい)政治判断だ」と習氏は言った。これらの発言を見ると、習氏が決して米国をよく思っていないことが分かる。

 王氏も同じであった。性格が暗く、人の前に出たがらない彼は仕事魔であった。著書「アメリカがアメリカを反対する」は2020年の米大統領選にあたり、中国で熱売された。その本によると米国の価値システマは衰えて、民主社会の体制も巨大な衝撃を受けている。この点において、習氏の言論と一致し、中国の対米方針の基本となった。

 2022年2月に流出した、中国政府のために働いた人物たちの宴会録音もそれについて言及しており、習氏が世界のリーダーになりたいとの野望や王氏の企みを暴露した。録音された主要人物はハーバード燕京研究所研究員の黄萬盛氏である。2020年7月に彼は中国政府の招きでコロナ防疫の中枢にいた。プライベートの宴会で彼らは内部しか知り得ない中国政府のコロナ防疫の情報を披露した際、習氏の野望にも触れた。要約すると、下記のようであった。

 「今の中国は単なる技術問題も政治化され、外交政策に影響が及んでいる。その原因は習氏の世界制覇意欲だ。そのために周りの人々もその意欲をあおり立ている。王氏は習氏の意欲をさらに燃えさせる原料を与える人だ」

 「ワシントンポスト」が掲載した著名ラジオパーソナリティーHugh Hewittが書いた文章は「王滬寧は世界一番危険な人」と評した。彼と習氏は共産主義の信奉者でその理念を世界に広めようとしている、という。

 「人類運命共同体を作ろう」と。それは習氏がさまざまな談話で一番頻繫に語る言葉であるが、「人類運命共同体は小説『1984』の現代版だ」と前中国中共中央政治局常務委員尉建行の秘書、王友群氏が公に評した。周りの持ち上げ報道なども加えて、習氏が世界を自分の指導下に置くような幻想にとりつかれている。最近の報道を見ると、その幻想が加熱されている気がしてならない。

 8月になると、習氏をはじめとする7人の政治局常務委員会が北戴河へ行き、夏休み期間が始まった。これはいわゆる「北戴河会議」の始まりで、定年になった長老たちも交えて中国の重要政策方針を語ることになっている。例年と同じく、この中国の大政方針および人事に関わる重要な政治時期は世界のマスコミに注目されたが、期待されたような大きな動きはなかったようだ。8月16日に習氏が中国東北地域の遼寧省を視察に出かけた。ゼロコロナではなく、共同富裕と中国式の現代化を繰り返して強調した。

 「東昇西降は今後世界の大きな流れと思って米国が主導する西方文明は衰落して、中国共産党が主導する中華文明はさらなる広がりをすると習近平は信じている。共同富裕は今後、習近平施政方針の核となるだろう」と「ラジオフリーアジア(rfa)」が報道で論評している。中国で成功をおさめれば、世界諸国へも社会主義を広めて、世界のリーダーを目指す。これこそが、習氏と王氏が胸に秘めた共同の野望であろう。