カルチャー

女性ヘルスケア業界の新スタンダード! セミナー「ジェンダード・イノベーション〜現状と国内事例〜」

イメージ
イメージ

 女性の健康課題をテクノロジーで解決するフェムテック分野。日本でも商品・サービスを提供する企業が増え、フェムテックについて知人と話し合うことが増えた、という人もいるだろう。では、「ジェンダード・イノベーション」という言葉を聞いたことはあるだろうか? ウーマンズ(ダブルコレクション・東京)が企画したビジネスセミナー「矢野経済研究所のフェムテック研究員と語る、女性ヘルスケア業界の新スタンダード『ジェンダード・イノベーション』〜現状と国内事例〜」が9月13日(火)、東京都内で開催された。

 最初に言葉の定義から入ると、ジェンダード・イノベーションとは、生物学的や社会学的な性差(ジェンダー)分析に加えて、年齢・人種・ライフステージなどの要因と掛け合わせた分析を取り込むことで、新しい視点を見いだしてイノベーションを創出することを指す。成⼈男性を基準に研究開発や意思決定がなされてきた社会・産業界を⼤きく変える概念として欧米で始まり、フェムテックの普及とともに、改めてジェンダード・イノベーションの重要性が注目されているという。

 例えば、患者の命を救う人工心臓は、女性や子どもにはサイズが適合しないことが多く、これまではほとんどが男性患者に移植されてきた。そこに着目したある会社が子ども用の人工心臓を開発したところ、移植が受けられる患者が増えたという。ジェンダード・イノベーションの概念は、医療・ヘルスケア業界において特に必要とされていて、今後のヘルスケア業界のスタンダードになるとウーマンズでは分析している。

 一見、ジェンダーレスの潮流に逆行する概念だと思うかもしれないが、オープニング講演で矢野経済研究所(東京)の水越孝社長は、「性差の違いを見ることで、文化的・社会的なバイアス・先入観を減らし、“正しく”多様性を追求することになる」と話した。

水越孝氏(矢野経済研究所 代表取締役社長)
水越孝氏(矢野経済研究所 代表取締役社長)

 一方、話題に上がることが多いフェムテックも、市場としての価値をみると売り上げに苦戦している企業もあり、今後の拡大が期待される。矢野経済研究所の清水由起主席研究員は、「フェムテックもジェンダード・イノベーションも欧米の追従ではなく、日本人の国民性に合わせたやり方が必要」と指摘した上で、ジェンダード・イノベーション視点の潜在市場は10兆円規模に上るとの予想を示した。

清水由起主席研究員
清水由起主席研究員
矢野初美氏(矢野経済研究所 研究員)
矢野初美氏(矢野経済研究所 研究員)

 ジェンダード・イノベーションの国内事例としては、1)女性トラックドライバー、いわゆるトラガールを促進するための補助操舵(そうだ)機能「パワーステアリング」、2)あらゆる人の高さに合わせることができる昇降式キッチン、3)男性肌用に特化した薬用美容液、4)男女別の尿もれパッド、5)女性の健康とキャリアを支援するマネジメント研修——などが紹介された。

 セミナーには、医薬・電子部品・IT・大学・アパレル・百貨店分野などの約850人が参加。セミナーを受けて「性差分析をした商品開発」について質問をしたところ、半数近い43%が「新規開発したい」と回答した。

 性差には体の違いだけではなく、価値観・働き方などの性差も含む。今後はフェムテックのみならず、ジェンダード・イノベーションからも目が離せなくなりそうだ。