東京では18年ぶりとなる天才画家・佐伯祐三の本格的回顧展が1月21日(土)から4月2日(日)まで東京ステーションギャラリー(千代田区丸の内)で開催される。
およそ100年前、大阪、東京、パリの3つの街で、短くも鮮烈な生涯を送った佐伯祐三(1898~1928年)。「佐伯祐三 自画像としての風景」と題された本展では、佐伯が描いた3つの街に焦点を当て、風景画だけでなく、人物画や静物画も含めた佐伯芸術の造形的な特質が、どのように形成されたのかを明らかにする。
2023年に生誕125周年を迎える佐伯の生涯は、多くのドラマと伝説に彩られている。大阪で生まれた佐伯は25才で東京美術学校を卒業し、その年のうちにパリに向かう。2年間の最初のパリ滞在中に、ユトリロやゴッホらから影響を受け、作品は大きな変貌を遂げる。
1年半の一時帰国を経て、再渡欧したのは1927年のこと。このとき佐伯は29才になっていた。パリに戻った佐伯は、何かに憑かれたかのように猛烈な勢いで制作を続けた。しかし、結核が悪化して精神的にも追い詰められ、1年後にパリ郊外の病院で亡くなった。
佐伯にとってパリは特別な街だった。重厚な石造りの街並み、ポスターが貼られた建物の壁、プラタナスの並木道、カフェ、教会、さらには公衆便所までが、傑作を生みだす契機となった。多くの画家たちや作品と出会い、強い刺激を受けたのもパリでのことだった。
生誕の地・大阪、学生時代と一時帰国時代を過ごした東京も、佐伯芸術を育んだ重要な街だった。大阪中之島美術館が所蔵する国内最大の佐伯祐三コレクションを核に、全国の美術館と個人所蔵家から集めた代表作100余点で構成される本展は、3つの街での佐伯の足跡を追いながら、独創的な芸術が生成する過程を検証する。
ポスターにも使われている最晩期の作品「郵便配達夫」は、ある日、妻の米子が買い物に出ようとして階段入り口ですれ違った白い髭が見事な老郵便配達夫をモデルにしている。佐伯は「病苦も忘れて愉(たの)しげに描き上げたという」(熊田司著「もっと知りたい佐伯祐三 生涯と作品」東京美術発行)。
近代美術史を専門とする熊田はいう「これまで佐伯祐三は、天才、夭折、パリというレッテルを“悲劇”の一語に括って、イメージが固定化されてきたきらいがある・・・(だが)昭和の知識人の多くが佐伯の風景を通してパリを見出すという顕著な社会現象があった」。
「佐伯祐三という画家の人生はわずか30年余、日本という極東の地に生まれパリで仕事をし、そこで落命した。小さな点のような存在であるが、しかし残した数多くの画面から外に広がり出る波は、抽象表現主義やアンフォルメル、タシスムといった戦後美術の大海の水際に接するように思える」と熊田は書いた。
会期中、一部展示替えを予定している。開館時間は午前10時から午後6時まで(金曜日は午後8時まで)。入館は閉館30分前まで。休館日は月曜日だが、3月27日は開館。
観覧料は、一般1,400円、高校・大学生1,200円、中学生以下無料。 詳細は公式サイトで。電話は03-3212-2485。