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デジタルの力で生活の質向上を 「Digi田(デジでん)甲子園」投票始まる  全国選抜55の出場者が出そろう

デジタルの力で生活の質向上を 「Digi田(デジでん)甲子園」投票始まる  全国選抜55の出場者が出そろう 画像1

 

 

▼従来の解決策が通用しない

 デジタルという言葉を聞かない日はないだろう。日常生活、仕事の場など、人が生きていくあらゆる面で、なくてはならない存在になっている。多くの場合、デジタル技術の開発から、社会での実装まで、というプロセスを経て、私たちの日常に浸透し、デジタルの力で生活の質が向上することを実感する。一方、デジタルと聞くと、「難しそう」「面倒くさそう」というマイナスのイメージもあるだろう。それは時として、デジタル=難しいという固定観念であったり、「食わず嫌いであったり」する。

 ただ、少子高齢化が急速に進むこの日本は、労働生産人口の減少、首都圏と地方都市との格差、「老老介護」など、喫緊の課題が山積し、それらを人口が増える前提で対応してきた従来の解決策が通用しなくなっている。

 そこで、日本が直面する多くの課題に対し、デジタルの力で解決していく道を模索せざるを得ない時代に突入している。そんなデジタル技術を少しでも身近に感じられる、「Digi田(デジでん)甲子園」の投票が1月17日から始まった。全国選抜55の出場者が出そろった。一人一人の生活の質が向上することを期待して取り組まれた、55の実例に触れてほしい。

デジタル田園都市国家構想のロゴ

 

▼応募も多彩な顔ぶれ

 政府は、デジタルの力で、地方の個性を生かしながら社会課題の解決と魅力の向上を図る「デジタル田園都市国家構想」を掲げている。都市の社会課題の解決も視野に入れながら、「地方に都市の利便性を、都市に地方の豊かさ」を合言葉に、デジタルの力で、都市であろうが地方であろうが、だれもが便利で快適に暮らせる、そんな社会を目指している。

 この構想の実現のために、政府は各地の自治体や民間企業、NPO法人など、デジタルの力を活用した活動を広く募集し、特に優れた取り組みを表彰する「Digi田(デジでん)甲子園」を2022年度からスタートさせた。

 具体的な取り組み例としては、医療、教育、子育て、物流、交通、農林水産業、中小企業、観光、防災など多岐にわたり、デジタルの活用により、地域の個別課題を実際に解決し、住民の暮らしの利便性と豊かさの向上や、地域の産業振興につながっている取り組みを表彰の対象としている。

 内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局によると、2023年度の「Digi田(デジでん)甲子園」は、全国から応募総数240件があったという。うち地方公共団体が97件、民間企業・団体が143件。この240件の審査結果、インターネット投票の候補として55件(うち地方公共団体が25件、民間企業・団体が30件)に絞り込んだ。

  55件の〝甲子園出場者〟の活動内容は、「Digi田(デジでん)甲子園2023」の専用サイト内で知ることができ、1月17日から1カ月にわたって、専用フォームからインターネット投票を実施している。

 国民によるインターネット投票と、計11人で構成される審査委員会(審査委員長・増田寛也・日本郵便社長)による審査で、地方公共団体部門、企業・団体部門ごとに、内閣総理大臣賞(優勝)、準優勝、ベスト4を選出する。

 このほか、「審査委員会選考枠」として、地方公共団体部門、企業・団体部門ごとに内閣総理大臣賞(優勝)、準優勝を決める。

 2023年度の〝甲子園出場者〟で、地方公共団体部門(25件)は「医療、介護、健康」「教育、子育て」「観光、文化、娯楽」「防災、安心・安全の確保」など幅広い分野での取り組みが選ばれている。

 一方、民間企業・団体部門では、「農林水産業、食関連」「防災、安心・安全の確保」「教育、子育て」など多くの分野の取り組みが選出され、応募者も、ベンチャー企業や地元企業、地方銀行、地方新聞社など、顔ぶれも多彩だ。

 

▼甲子園出場者一覧

■本選出場者 地方公共団体部門

1.愛知県春日井市 地域共助による自動運転ラストマイル送迎サービスの社会実装
2.愛知県豊田市上下水道局 水道DX~人工衛星とAIによる水道管の健康診断~
3.青森県立中央病院 スマホでつなぐ安心安全な医療
4.秋田県北秋田市 世界遺産「伊勢堂岱遺跡のXR化」事業
5.茨城県常総市 常総市在宅医療・介護連携「電子@連絡帳 JOSOシステム」
6.岩手県北上市 北上市こども療育ネットワーク
7.愛媛県宇和島市 スマートスピーカーを活用した『高齢者見守り・オンライン診療』
8.愛媛県松山市 デジタル版マイ・タイムラインで逃げ遅れゼロプロジェクトの推進
9.大分県 ドローンによる被災状況調査体制の確立等を通じた地域防災力向上
10.大阪府八尾市 まちのコインを使った「ものづくりのまち」の新たな観光資源化
11.岡山県教育庁生涯学習課 小・中学生の学習用コンテンツサイト「おかやま まなびとサーチ」
12.熊本県大津町 「本当に」誰一人取り残さないデジタルデバイド対策
13.群馬県 近隣自治体や県民等とのEVカーシェアリング(EGシェア)
14.佐賀県 農業×デジタル 匠(熟練農家)の技術を次世代へ!
15.佐賀県佐賀市 全員が主役!みんなで創る「佐賀市公式スーパーアプリ」
16.東京都江戸川区児童相談所 AI(電話応対支援システム)を活用した児童相談所の取り組み
17.東京都墨田区役所産業観光部産業振興課 ノーコードツールでIT経験ゼロの町工場社員を「DX人材」に!
18.東京都日野市役所 デジタル改革推進検討会 住民情報システム×GISで変える!!行政の仕事
19.徳島県 ローカル5Gを活用した遠隔医療による医療格差の解消
20.栃木県総合政策部デジタル戦略課 佐野らーめん店の混雑状況可視化による来訪者の観光周遊促進施策
21.長野県上田市 スマートフォンアプリを活用した消防団の災害活動支援
22.広島県土木建築局建設DX担当 インフラマネジメント基盤DoboXを核とした防災DX
23.福岡県福岡市 防災アプリ「ツナガル+(プラス)」~DXで市民の安全を守る!~
24.宮崎県延岡市 健康マイレージと連動し四方良し?!を実現!のべおかCOIN
25.山形県鶴岡市 つるおか子育てワンストップe-私書箱で申請~交付を全て電子化

■本選出場者 民間企業・団体部門

1.ICS-net 株式会社 食品原料段階でのロスをテクノロジーで削減します
2.株式会社アイシン ごみ収集サービス:ReGoMe(リゴミー)
3.株式会社雨風太陽 産直プラットフォーム「ポケットマルシェ」
4.Arithmer株式会社 河川氾濫における浸水被害を事前予測する浸水AIシステム
5.イツモスマイル株式会社 地域の交通を支える『まちのクルマアプリ』
6.射水ケーブルネットワーク株式会社 地域DXはケーブルテレビがヨコ展開!(地方から地方へ)
7.輝翠TECH株式会社 AIロボットで果樹を運搬~月面探査技術で農家の課題を解決
8.社会福祉法人恵仁会 介護のデジタル化で目指す利用者と職員の幸せな環境づくり
9.KDDIスマートドローン株式会社 スマートドローンプラットフォームを活用した伊那市ドローン物流
10.Kotozna株式会社 日本初!生成系AIチャットボットで、多言語おもてなし観光案内
11.信濃毎日新聞株式会社 地域密着型食品ロス削減スマートフォンアプリ『HELAS』
12.株式会社セラク QRコードを活用して青果物の集出荷をデジタル化
13.株式会社たびまちゲート広島 PEACE PARK TOUR VR
14.東杜シーテック株式会社 水産業DX化の一歩~AIと超音波で誰でも簡単に魚の雌雄を判別
15.中越鉄工株式会社、となみ衛星通信テレビ株式会社 ローカル5Gを活用した鉄構製造加工の自動化の実現
16.中部電力ミライズコネクト株式会社(MZC)および岡崎市の連名 駐車場シェアで解決!岡崎桜まつり時の駐車場不足に伴う交通渋滞
17.ネクストワン合同会社 障害者と企業・福祉系事業向け安定就労システム「キモチプラス」
18.パシフィックソフトウエア開発株式会社 インターネット自動給餌機「餌ロボ」で持続可能な養殖を目指す
19.verbal and dialogue株式会社 写真撮影だけで完了 AI工事写真アプリ「Cheez」
20.東日本旅客鉄道株式会社 日本初!駅ホーム上で対面とオンラインで受診できるクリニック
21.株式会社フィッシュパス 日本の川・地方の未来を変えるデジタル遊漁券
22.株式会社ふくいのデジタル 地銀×地方紙の共同出資会社ふくいのデジタルによる地域DX事業
23.富士フイルムシステムサービス株式会社 罹災証明迅速化ソリューション
24.一般社団法人ペアチル 似た境遇のひとり親同士が繋がれるトークアプリ「ペアチル」
25.株式会社ほくつう福井支社・北陸電力株式会社新価値創造研究所 獣害対策現場におけるDX ~害獣検出AI『Bアラート』~
26.WHOLE EARTH FOUNDATION JAPAN 市民参加型のインフラ保全プラットフォーム「TEKKON」
27.株式会社ママクリエイターラボ じまんのママ1万人!子育てとキャリアを叶える働き方を常識に!
28.株式会社ライトライト 「オープンな事業承継」で地域の小規模事業者の後継者探し
29.株式会社YE DIGITAL デジタル技術を活用して畜産と飼料輸送を変革
30.一般社団法人One Smile Foundation 笑顔が寄付に変わる!保育園写真販売サービス「スマイラル!」

▼「ウィン・ウィン・ウィン」

 スマートシティといった街づくりの専門家として、自治体などへのコンサルタント業務を行う、日本総合研究所の船田学 都市・モビリティデザイングループ部長は、デジタル田園都市国家構想について「日本経済のために必要な政策だ。日本全体で人口が減少する中、市場が縮小するだけではなく、働く人が少なくなってしまう。一方で、日本の国民総生産(GNP)を維持するためには、生産性をどうしても上げていかなければいけない。その時に、デジタルトランスフォーメーション(DX)が唯一の道ではないか」と指摘する。

 その上で、「Digi田(デジでん)甲子園で登場した事例を、できるだけ多くの自治体や企業に知ってもらうことが重要だ」と強調。船田氏は事例を共有することで、①住民の生活の質が維持できる②自治体は労働力が減少する中で行政サービスが維持できる③民間企業は社会課題を起点にして新しいビジネスに参入できる―などが期待できるからだと強調する。つまり、住民・自治体・民間企業の3者が「ウィン・ウィン・ウィン」になるという。

 デジタルというと、とかくカタカナの用語が登場するが、そこは少しだけ我慢していただき、これらの55の事例を一つ一つ見ていくと、デジタルが意外なほどに、自分の生活につながっていることを実感できるのではないか。そして、お気に入りの取り組みに一票を投じ、デジタル技術をより身近なものにしてはいかがだろうか。