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過去の映画からの影響が強く感じられる『ヘルドッグス』と『川っぺりムコリッタ』【映画コラム】

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『川っぺりムコリッタ』(9月16日公開)

(C)2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

 荻上直子監督が自身の小説を映画化。孤独な青年がアパートの住人たちとの交流を通して社会との接点を見つけていく姿を描く。

 北陸の小さな町にある小さな塩辛工場で働き口を見つけた流れ者の山田(松山ケンイチ)は、社長(緒形直人)から紹介された、南(満島ひかり)が大家を務める古い安アパート「ハイツムコリッタ」で暮らし始める。

 できるだけ人と関わることなく、ひっそりと生きたいと思っていた山田の静かな日常が、隣の部屋に住む島田(ムロツヨシ)が「風呂を貸してほしい」と訪ねてきたことから一変する。

 山田と島田の間には、少しずつ友情のようなものが芽生え始めるが、ある日、島田は山田がこの町にやってきた秘密を知ってしまう…。

 タイトルの「ムコリッタ(牟呼栗多)」は、時間の単位を表す仏教用語で、ささやかな幸せなどを意味するのだという。全体的には、山本周五郎原作、黒澤明監督の『どですかでん』(70)の影響を強くうかがわせる。

 特に、吉岡秀隆演じる墓石のセールスマン親子は、明らかに『どですかでん』の物乞い親子の模倣だ。

 ただ、白飯、牛乳、塩辛、漬物、野菜、そしてすき焼きなどを通して、シンプルに「食べること」について考えさせるところと、骨を媒介に、生と死のはざまや死生観を浮かび上がらせるところが、いかにも荻上流という感じがした。

 いい話のようで残酷なところもあり、シンプルなように見えて実はシュールな映画なので、印象としては、傑作と駄作の間を行きつ戻りつするようなところがあって、見ながら戸惑いが生じた。このあたりも『どですかでん』と重なるところがある。

 ラストも黒澤の『夢』(90)の中の「水車のある村」をほうふつとさせる。荻上監督の映画がここまで黒澤を感じさせるとは、ちょっと驚いた。不思議な存在感を示したムロが好演を見せる。

(田中雄二)